旧岩崎邸庭園「撞球室」特別公開

旧岩崎邸の東側に隣接する「撞球室」特別公開にあわせ、初めてこの都内有数の近代建築を見に行く。正面玄関前には当時からソテツが植えられ、此処はワイハか宮崎か、という異空間っぷり(最寄駅は湯島、住所は池之端)。

洋館は岩崎財閥をつくりあげた岩崎彌太郎の長男で、三菱第三代社長の岩崎久彌の本邸として明治29年(1896)竣工。往事は今の3倍の敷地に和洋あわせて20棟が建っていた。戦後はGHQに接収され、昭和27年(1952)に国有財産となり、最高裁判所司法研修所などに使用された。昭和36年(1961)に洋館と撞球室(ビリヤード場)が「旧岩崎家住宅」として国の重要文化財に、昭和44年(1969)に和館大広間と洋館東側の袖壁が、平成11年(1999)に煉瓦塀を含む敷地全体と実測図が、それぞれ追加指定を受けた。
「国立近現代建築資料館」とセットで入館料400円。玄関に先に立つガードマンに日傘をわたし、ぬいだ靴をビニル袋に入れて、入館。内部は冷房を入れておらず、玄関でボロっちい団扇を無料貸出中。但し、思いのほか館内の風通しは良い。

館内はこれでもかと「撮影禁止」の表示が設置されている(熱海の「起雲閣」は太っ腹だったなぁ)

東京都公園協会>旧岩崎邸庭園>見どころ解説
http://www.tokyo-park.or.jp/park/format/view035.html
南面の芝生から、17世紀英国ジャコビアン様式に、イスラームやコロニアル様式も随所に取り入れた洋館の眺め。右奥に「撞球室」が建っている。 設計は洋館と同じくジョサイア・コンドル(1852-1920)、1897年以降の竣工。
地上1階+地下室の撞球室は洋館と地下通路で繋がっているが、現在は閉鎖中(以前、NHK「バクモン学問」でカメラが入ったことがあるくらい)
平成24年度の修復工事が昨年7月に完了、税金で直したのに公開しないのもナンだということで、1年で最も来館者が少ないお盆前の7日間、15-17時に限定して、宮内庁が特別に公開した。
案内板によれば「国内では珍しい、コンドルが「スイス・コッテージ・スタイル」と呼称した仕様で、室内の天井のトラス構造にもその特徴がみられる。校倉造り風の壁、刻みの入った柱、軒を深く差し出した大家屋根など、(コンドルは英国人だが)米国の木造ゴシックの流れをくむ建物」とのこと。
竣工当時はビリヤード(撞球、玉突き)は紳士の嗜みとされたが、昭和10年代には図書室として利用され、台は現存せず。内部の壁を飾っていた「金唐革紙(きんからかわし)」が、このほど桜の木を版木棒にして、上田尚氏(金唐紙研究所代表、1934-)の手による「金唐紙(きんからかみ)」で復元された。はたしてGHQの仕業か、上から塗装されていることが修復段階で初めて判明、 往事のままに復元された。その肝心の品は例によって撮影禁止。

「金唐革紙(きんからかわし)」とは、先ず、海外から日本に齎された革の壁紙「金唐革(きんからかわ)を模倣して、和紙を素材に、箔押しや彩色など様々な工程を経て制作したもので、別名「擬革紙」。代用品の域を超え、明治以降は欧米列強主催の万博に逆輸入されるなど、高い人気を得ていた。かつて鹿鳴館の内装にも使われていたが、現在では《旧岩崎邸洋館》2階客室のものを含め、国内に現存する「金唐革紙」は数カ所のみと極めて貴重。

「金唐革(きんからかわ)」については、INAXギャラリー(当時)1984年開催の企画展概要がわかりやすい。
ほか、この《旧岩崎邸洋館》や、呉市《旧呉鎮守府司令長官官舎 (入船山記念館)》(国の重要文化財)における復元制作に関わった日本画家の後藤仁氏の解説ページなど。


金唐紙研究所/上田尚氏が再現制作したものは「金唐紙(きんからかみ)」と呼称(造語)し、上記とは明確に区別しているようだ。

いつの造作か不明だが、撞球室前の庭に置かれたベンチ。



+飲食のメモ。
ひと休みは、洋館に隣接した和館、かつての岩崎家のプライベート空間だったところ。船底天井の渡り廊下を抜けて行く、3部屋から成る和館には、庭園に面した次の間と三の間に御茶席が設えられ、岩崎家ゆかりの小岩井農場のアイスクリームをつかった甘味メニューがある。
熱海でも目にした長い1枚板の天井をもつ縁甲板を挟んで、庭に面したテーブル席でいただく、 完全に逆光の「抹茶のアフォガード」税込み560円。
かつては建坪550坪という規模で平屋が立ち並び、使用人部屋を含む岩崎家のプライベート空間として使われていた。洋館大食堂のビデオシアターでの映像資料で、瓦屋根が延々と連なった、敗戦・財閥解体前の往事がしのばれる。
釘隠しなどの錺や、橋本雅邦が下絵を描いたとされる富士山の日本画が床の間に飾られた広間の書院障子の組子は、岩崎家の家紋である「三階菱」があしらわれている。



旧岩崎邸庭園」の入館料で入れる(または事前に予約手続きを踏めば入館無料の)「国立近現代建築資料館」は16:30閉館とやや早い。見学者が殆ど居なかったが、和館とは対照的に冷房がギンギン、勿体ないことである。
8月24日まで開催中の「平成26年度 文化庁国立近現代建築資料館 前年度活動報告展示「建築アーカイブズをめざして」を駆け足でみる。
坂倉準三関連、 2003年に取り壊された旧東急文化会館 渋谷パンテオンにあった、ル・コルビュジェの緞帳『闘牛14号』、吉阪隆正、大高正人といったモダニズム建築時代の作品図面(当然、手描き)や資料などが並ぶ。 前年度展示の紹介もあり。同館ではデジタル化による保存を進められている。
国立近現代建築資料館」の次回展示は未定。

なお、「旧岩崎邸庭園」では、今秋に2日間限定のライトアップイベントや、ナイトコンサート、金唐紙制作ワークショップなどが予定されている(有料、要申込)

おしらせページ(8月11日発表)
http://teien.tokyo-park.or.jp/contents/info035.html#3