成瀬猪熊事務所 シェアハウス《ガーデンテラス鷹の台》内覧会

成瀬・猪熊建築設計事務所の最新作《ガーデンテラス鷹の台》を日曜日に見学。
立地は西武国分寺線鷹の台駅から徒歩2分の玉川上水沿い。築34年、いわゆる新耐震後の元社員寮を、1戸につき3人が住まうシェアハウスとしてクライアントに提案、リノベーションした。

下の画は敷地の奥から、北側の眺め。グレーの切妻型屋根が整然と並ぶ。
1つ屋根の下に2戸が入った棟が5つ、3戸入った棟が6つ、計16戸という構成。下の画のようにドアが棟の中央に寄ったタイプもあるが、左右の住戸を前後にずらして配置されている。内部の間取りは全て3LDK。
今回の計画は。坪18万円という限られた予算がハードルとして先ずあった。1棟2戸の壁を抜いて1戸にすることも技術的には可能だったが、内部も壁式RC構造であったため、費用面から見送られ、1戸3LDKを3人がシェアするレイアウトに。7棟分け隔てなく空間的な魅力を引き出し、不動産価値をもいかに高めるかがポイントとなった。成瀬さんいわく、コンセプトは「付け足したものもあるが、基本は"引き算のデザイン"」。
敷地の西側からの見通し。私道を挟んで、北に1-5棟、南に6-7棟という配置。上の画、向かって右が南側=玉川上水。
改装前は、防犯上の理由もあって、北側の棟には大人の肩ぐらいある柵とブロック塀がたち並び、住まいと外部を隔てていた。成瀬、猪熊の両氏が現地を訪れた際、各戸の前庭には雑草が生い茂り、低木も成長しすぎていて、暗い印象を持ったという。玉川上水沿いの豊かな自然からも遮断された状態も勿体ないとも思った。そこで、南側の塀を全て取り払い、各戸の前庭をシェアハウス住民の共有部とすることで、町に対しても大きく開くことが可能な建築へと生まれ変わらせた。
南側2棟の西側には、三角形の公園のような敷地が元からあった。そのうち約1/3にウッドデッキのテラスを新設し、木製のベンチ付きテーブルを3台設置。
テラス脇には共有キッチンも据えた。画面には映っていないが、小さな菜園もある。防虫などの基本的な管理は運営会社が行ない、費用は賃料の中に含まれている。
共有テラスの向かい、かつて塀があったところに新設された木製のベンチ。北側5棟の前にはコンクリート階段も新設。砂利を敷いた前庭には飛び石を置き、階段と各戸専用テラスを結ぶ。
各戸の専用テラスの横幅は同じだが、奥行きは一様でなく、全体のバランスをみながら、飛び石と合わせてリズム感を出している。
庭の木は元から植わっていたもの。やむなく根元を切ったもの以外は、植え替えはせずに、枝のみ剪定してそのまま生かした。外壁は塗り直さず、全ての棟を高圧洗浄している。

今回の内覧会では2戸を見学。出入りは共有部の前庭に面した専用テラスから。
以前は単身者向けの3LDKだったレイアウトは変えず、建物の外観からにもみられる、"良い感じのレトロ"な雰囲気を壊さないようにしている。壁の一部はホワイトとパステルカラーのツートンなどに塗り直し、内部各所の照明器具は全て交換した。
共有部のキッチン。設備はほぼそのままだが、キャビネットの面材と把手は新装している。キッチンに備え付けの炊飯器や電子レンジは住民3人の共有物。冷蔵庫は各部屋に1つずつ付く。
部屋の奥から、リビングの見返り。廊下との境のドアは取り替えず、レトロ感を残した。
こちらも扉が半円形扉で、"昭和な感じ"の収納庫。住民共有物の掃除機がしまわれていた。キッチンや廊下、リビングなどの共有部の清掃は、管理会社が週1で行なう。
上の画:奥がキッチン、左側がトイレなどの水まわり。
洗濯機も住民の共有物。以前は浴室だった一角にはシャワーユニットが入り、空いた手前のスペースは脱衣所に。
共有部・玄関。ドアは再塗装している。ドア上には、シェアハウスとしたことで法律上必要となった避難口誘導灯が付く。壁の衣紋掛けはそのまま再利用。
階段下から2階の見上げ。
天窓は開閉可能(1階の廊下、トイレ脇に操作ハンドルがある)。成瀬さんが昨夏に現場を訪れた時、室内はかなりの暑さだったが、天窓とテラスの窓を開け放つと、風が上下に抜けて、劇的に涼しくなったそうだ。
RC壁を挟んで2部屋が並ぶ2階。バルコニーが付いている部屋(上の画、向かって右)はその分だけ若干狭い。下の画はバルコニー無しのタイプ(11.94平米)
ベッド、デスク、チェア、カーテン、冷蔵庫、天井照明、冷暖房機付き。
1階にある部屋も仕様はほぼ同じだが、収納スペースの扉の色が異なる。以前、和室だった部屋はテイストを残し、襖の上から新しい壁紙を貼って整えた。下の画は、折れ戸の収納扉をそのまま残しているバルコニー無しの部屋。
どちらの部屋も、廊下との境のドアを閉めると、キャビネットとほぼ同じ色で塗装された扉面が現われる。成瀬さんによると「今回のリノベでは建物の中でも外でもごく自然に見えるデザインを心掛けた」とのこと。
前庭の塀が残ったままであれば、まるきり違っていたであろう2階からの眺め。私道を挟んで、共有テラスが見える。低いフェンスの向こうが玉川上水。今は緑が芽吹いたばかりだが、じきに美しい新緑に包まれる。上水沿いは遊歩道が整備されており、地元住民や周辺の大学に通う学生にも通年で愛されている道。
部屋番号はドアの隅に明記。塗装の上からカッティングシートを貼っている。
1階リビングに接した部屋も、室内の仕様は2階とほぼ同じ。ドアのリビング側がツートンに塗装されているところだけが異なる。
1階の壁のツートンカラーは各戸で異なる。上の画では淡いグリーンだが、隣の棟(下の画)では淡いブルー。
階段下や共有廊下から2階を見上げた際に、高さがある天窓まで白一色で塗ってしまってはやや単調になるため、微妙に変化をつけたカラーリングにしたとのこと。
階段を昇った突き当たり、妻屋根の下は納戸。屋根の傾斜面の仕上げは木毛セメント板。
玄関先。郵便受けは新しく取り替えたが、玄関灯はそのまま再利用。
社員寮時代は棟の間は小塀で仕切られていたが、今回のリノベではこれも取り払い、不要な低木も伐採した。上の画のように、北側道路からは玉川上水の緑まで見通せるようになり、周辺住民からは「鬱蒼としていた一帯が明るくなった」と歓迎する声も聞かれたとのこと。

改装予算が限られる場合、内装を新しくすることに注力しそうだが、建物の外部に予算を振り分けるという発想の転換が見事。会場を辞す頃には、まるで「塀」など元から無かったかのような"錯覚"さえ覚えた。
共有テラスはシェアハウスの敷地内だが、近隣住民が散歩の途中にひと休みできるだろうし、シェアハウスの住民たちとのコミュニケーションも生まれるだろう。新旧の住民が今度、どのように空間をシェアし、自分たちの手で変化させていくか、ハコを用意した側も楽しみにしている。
気になる賃料は、高熱費や水道料、各種管理費全て込みで、1か月/6万5千円から。既に上水側の2棟は入居済み。空室問合せの中には1戸3室ごと借りたいという希望もあるそうだ。

内覧会開催時は雨が降ったりやんだりのあいにくの天気。晴天下の外内観は、シェアハウス運営会社(株)オークハウスの公式サイト〜物件紹介ページにあり。

成瀬・猪熊建築設計事務所
www.narukuma.com/




+飲食のメモ。
駅前にある洋菓子+喫茶「DORIYAN(ドリヤン)」にて(管理会社による「ガーデンテラス鷹の台」ページにも店の外観写真が出ていた)。開店は1988年。

「まるごとあまおう」=苺を生クリームと求肥クレープで包んだケーキと、コーヒーを付けて、消費税込みで660円。学生が多い土地柄ゆえか、殆どのケーキが300円台。このほかクレープやトーストのセットメニューもあり。


下の画はテイクアウトした「さくらロール」(240円)と、昔懐かし「こだいら丸ポストサブレ」(130円)
何故に「丸ポスト」か。店の陳列台の掲示によれば、小平市は都内でも群を抜いて現役の「丸ポスト」が多いのだそうな(参考:小平市ホームページの解説
いろいろとおいしゅうございました。ごちそうさまでした。

雨天だったので再訪を諦めたが、玉川上水の遊歩道を15分ほど歩き、武蔵野美術大学の手前にある中華屋「東華園」もおススメ。ガツンと入っているニンニクが苦手でさえなければ。