「愛のコンティニュアスデザイン」展@ アクシスギャラリー

六本木のアクシスギャラリーにて、先月30日から「愛のコンティニュアスデザイン」展が開催されている。会期は11月8日まで。

主催:アクシスギャラリー、S&O DESIGN
プロダクトデザイン:清水久和
企画:岡田栄造(S&O DESIGN)、谷口真佐子(AXIS)
会場デザイン:山口誠(山口誠デザイン
グラフィックデザイン:井上公一(Oryel
写真:宮原夢画(Muga Miyahara photografia
映像編集:畔柳尭史(ポーラーデザイン)

コンティニュアスデザイン(CONTINUOUS DESIGN)とは、S&O DESIGN(株)の代表を務め、プロダクトデザイナーである清水久和氏が提唱・実践するデザイン手法。頭の中に浮かんだかたちのアイデアを、3Dソフトの独自に設定したエイリアス機能つかって具現化し、原型からフィニッシュまで途切れずに完結させる。いわゆる2D上の図面も、モックアップも要らない。ソフトは単なるデータ入力に陥らずに純粋にデザインの道具として使う。
企業の製造ラインでは、デザイナーと完成形との間に第三者が複数介在し、その担当者が異動することもしばしば。清水氏いわく「弱々しいデザイン」になりがちのところ、コンティニュアスデザインならば「フレッシュなデザイン」に。

清水氏と、氏の呼びかけに賛同したメーカー7社(後述)によるコンティニュアスデザインへの取り組みは、雑誌『AXIS』の2014年12月号から連載され、本展はそのコンセプトモデルが一堂に介して発表される。
例えば、上の画に写っている清水氏の最新作(通称「マゲ貯金箱」)のように、従来の二次元を基軸とするデザイン手法からは生まれえなかった、かつ製造も難しかったものを造り出すことが可能になる。2013年の瀬戸内芸術祭に清水氏が出展した「オリーブのリーゼント」も同じプロセスで制作されたもの。展示台上のモニターでは、清水氏がこれまで手掛けたプロダクトを紹介するスライドショーも流れている。

なお、本稿のテキストは、清水氏と岡田栄造氏によるギャラリーツアーの解説、オープニングレセプションでの関係者のコメントを元に、会場で販売中の作品集『愛のコンティニュアスデザイン』(株式会社アクシス,2015)収録テキストも参照しながら構成している。

清水久和×ノリタケカンパニーリミテド
ノリタケの森《ノリタケミュージアム》を清水氏が見学した際に知ったという〈トーストたて〉に着想を得た、果物を載せるコンポートとカップ&ソーサー。器を使わずにコンビニ弁当で食事を済ますような、忙しない現代が失った、丁寧な暮らしを蘇らせるプロダクトを提案したいという清水氏想いから誕生した。
コンポートの高台から縁(ふち)にかけての曲面形状は、従来のデザインでは数値として図面化するのが困難であった。
コンセプトは"200年後のノリタケ"。これらの作品は、"発掘された陶磁器の破片"からもインスピレーションを受けており、表面の絵柄は古来から伝わる陶磁器の修復技術をイメージ。ノリタケの白い陶器を一枚、清水氏が実際に割ってみた形状を再構築している。

清水久和×コクヨ
(ブレード)と把手が一体化したハサミ。茎から花へと連続するような"開花"をイメージしたもの。既にプロダクトとしてはほぼ完成しているハサミだが、大人が使う上質感、高級感を付加した。

場内の壁を飾る大判写真は、宮原夢画撮影のもの。S&O DESIGN がデザイン画とコンセプトを伝え、後はモデルの設定から全て自由に撮ってもらったとのこと。

清水久和×コトブキ
公園向け遊具などを開発している部門とのコラボレーション。
寸法にとらわれない、3Dならではの造形。飴細工をひねり、ねじったような流線型の"水飲み場"。水の流れもスパイラルになる。子どもたちが集まって、向かい合った3人が同時に利用すると楽しい。
展示台のモニターでは、芝生の上に仮置きされた"水飲み場"の使用イメージの映像も(撮影協力:オランダ大使館)

清水久和×富士フィルム
本展のポスターやDMなどに作品の一部拡大の画が使われているのがこちら。

スマートフォンの浸透により、今日では撮影機器というよりもメッセージ性をもったファッションアイテムとして人気があるという"チェキ"こと「インスタックス」に、定番のファッションアイコンであるスタッズ(鋲)を纏わせた「スタッズチェキ」。"ちょっとワルそうな"チェキである。
パッケージと専用フィルムは、出来上がった作品にあわせて富士フィルムのデザインチームが用意した(参考商品につき、発売は未定)
清水氏いわく、「もともとスタッズとは、インダストリアルの分野から生まれた形状であり、それが後にファッションにも取り入れられた。今回のプロジェクトで再びスタッズを工業側に引き戻し、デザインアイコンであると同時に機能も持たせた」。スタッズのひとつはシャッターになっている。

上と下の画、奥に写っているのは、象印マホービンの出展作品のイメージポスター。
清水久和×象印マホービン
高品質・高性能を誇り、特に中東での人気が高いという、社名にも冠されているマホービン(魔法瓶)。卓上に垂直に立てるのではなく、斜めに据え置く。把手が無いのは「モノと一体感のあるハンドリングを試したかった」と清水氏談。中身が満タンで重くとも、少しだけ傾ければ、楽に使うことができる。3つの展示モデルのうちひとつは内部の構造がわかるように特別なガラス仕様。

清水久和×資生堂
1954年に発売された香水「ホワイトローズナチュラル」のためにデザインされたボトル。清水氏にとって、薔薇(バラ)=花びらとは結びつかず、幼少期の記憶もあって「棘(とげ)」というイメージが強かった(驚くべきことに、清水氏は資料も何も参照せずにこの棘を具現化したとのこと:ツアー時の談)。この斬新なボトルに創作意欲を触発された、資生堂の香料開発グループチープパヒューマーが新たに香料をブレンド、モデルと並んでお試しサンプルの綿が用意されている。

清水久和×天童木工
天童木工が開発し、かつてはテニスラケットの製造にも使われていたコマ入れ成形の技術を活かした「ラケットチェア」。4カ所にコマ入れ成形が使われている。角(端部)がないため、人がぶつかっても痛くないし、和室にも置いても畳が傷まない。本体スギあるいはホワイトビーチでの商品化が決まっている(天童木工東京ショールームにて注文予約受付中、商品の到着は来年春以降の予定)

以上7社の作品および清水氏の新作が並ぶ会場のデザインは、建築家の山口誠氏山口誠デザインが担当。主催者であるS&O DESIGN のデザインディレクターを務める岡田栄造氏から伝えられた会場イメージは「高級時計やジュエリーが陳列されているような雰囲気」。
「来場者で埋まってしまうとわかりにくいのですが、ポイントは足下です」と山口誠氏。
展示台の側面にアクリルミラーを張り、表面は真っ黒く塗装。膝のあたりで約5cm幅のグラデーションがかけられ、徐々に黒がぼやけて、床に近い部分では完全に鏡に戻る。この鏡の部分にフローリングの床が映り込み、まるで展示台が作品ごと宙に浮いているかのように見える。グラデーション加工は手作業によるもの。
今回そしてこれまでの拙稿も、備忘録に添えてきた撮影画像は全て、清水氏がデザインしたキヤノン「IXY Digital」である。このような"邂逅"を果たすとは、全く思いもよらなかった。

「愛のコンティニュアスデザイン(LOVABLE CONTINUOUS DESIGN)」展は11月8日まで。開廊は11-19時(最終日は17時まで)。入場無料。ギャラリーツアーが開催される場合、AXIS Gallery facebookにて告知あり。

アクシスギャラリー「愛のコンティニュアスデザイン」
www.axisinc.co.jp/media/exhibitiondetail/





+飲食のメモ。
AXISビル3階[IMA CONCEPT STORE] の奥にあるカフェ[IMA cafe] にて休憩。平日の開店は12時と上階のアクシスギャラリーより1時間遅れるが、22時まで営業しているのがありがたい(土日祝の営業は11-20時)。30日のオープニングレセプションの後も平日L.Oの21時半ギリでなんとか利用できた。アリガトウございます。
コーヒーやラテがおいしいので、アクシスギャラリー見学時に何度か利用しているのだが前回の画、2-3種用意されているマフィンが[RFECTOIRE(レフェクトワール)]のものだったと初めて気付く。うかつ。
先にオーダーした「カモミールジンジャー」(¥500)とはちょっと合わないかもナーと思いつつ、追加購入せずにはおれぬ「抹茶・ココナッツ・黒糖クランブルマフィン」(レシートをもらい忘れる。ちなみに本店での販売価格はだいたい¥250+税)
どちらも美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

IMA CONCEPT STORE
http://imaconceptstore.jp/