ブルースタジオ「わの家 千峰」オープンハウス

ブルースタジオが手掛けた、築85年の平屋住宅をリノベーションしたシェアハウス「わの家 千峰(Senpo)」を見学。
最寄りとなる私鉄駅には、駅を中心に4つの商店街があり、そのひとつが途切れた先の静かな住宅街の中に「わの家 千峰」はある。駅からは徒歩4-5分ほどの距離。


昭和4年に建てられたこの家には、数年前まで「千峰(せんぽう)」という雅号のおばあちゃんが住んでいた。この家で幼少期を過ごし、愛着も深いご家族は、家屋を取り壊して土地を分割分譲せずに、シェアハウスとして存続させることにした。昔ながらの、今はもう作られていないガラスや、千峰おばあちゃんの雅号入りの襖、古い家具類も出来る限り残し、必要なところだけ手を入れている。
北面、片流れ屋根付きの門扉から敷地内へ。
玄関アプローチは豆砂利洗い出し。この時点で早くも昔懐かしい昭和の香りが漂う。右脇には小さな人工池あり。左側の小さな妻屋根は祀(ほこら)か。
式台付き玄関をあがり、北側・道路側の振り返り(見学会開催時は受付が置かれた)
玄関に直結した広間(共有部)。
家屋はコの字形状で、中庭と濡れ縁を中心に、6つの個室と、広間や水まわりなどの共有部が配置されている。

平面図など詳細:ブルースタジオ「わの家 千峰(Senpo)」特設サイト
http://bluestudio.typepad.jp/senpo/
玄関の右側、間仕切り壁を挟んだ一室には、かつて家族団欒の象徴ともいえる炬燵が置かれた四畳半があった。改修後は板敷きにして、入居者の共有部となる台所を拡張している。
台所(共有部)。
フライパンなどの調理器具、コーヒーメーカーやトースター、食器類なども共有物。3×2で納められたミニ冷蔵庫(下の画)のみ個人の管理。
照明の殆どは元からこの家にあるものだが、キッチンの照明カバーはブルースタジオのデザイナーがみたてた。新しく塗り直された白い天井と壁に、美しい光模様を映し出している。

勝手口まわり。
台所の一部を減築して、中庭に設けた自転車置き場に通じるスペースを外溝部分に確保した。
共用部:1台分の洗濯機置き場。
ガラスの引き戸。模様付きの不透明ガラスを見たのは久し振り。柄は梨地(ナシジ)か。
共用部:浴室は小さいながらも檜風呂。
風呂場の隅には、釜炊き用の小さな扉が残されていた(現在は閉鎖)。後でお目にかかったお施主さんに話を聞くと、昔は大きなキノコのような金属の逆風止めから燃焼排気が噴き出すタイプの釜を使っていたという(アレに触るととんでもなく熱くて火傷するんですよね)。そして、冬の寒い日でも、ネジで締める錠が付いた引き違い窓を開けて換気しながらの入浴だった。
共有部/広間から、南の濡れ縁側の眺め。
玄関扉が開け放たれていたこの日、風が南北に通り抜けて、とても気持ちがよかった。
広間の隅に置かれた「江戸長火鉢(関東火鉢)」。現役品を初めて見た。「ここに水を入れて、お湯を沸かして、この小さい円蓋を取った中でお燗して・・・」と使い方を施主に教わる。後ろの絵屏風は千峰おばあちゃんの筆によるもの。
一昔前の黒電話や扇風機など、映画かドラマの場面でしかお目にかかれないものばかり。
昭和の香り漂う共有部「広間」を経由しないと、各個室および共有部には行かれない。
共有部/水まわり、シャワーブース。
共有部/水まわり、洗面室。
共有部/トイレ。
但し、ここは懐古の念でもって「便所」と呼びたい。扉は木製、錠も同じく、しかも閂(かんぬき)式だった。
共有部/前述「便所」前の洗面(手洗い場と呼びたい)。
中庭と広いぬれ縁に面した廊下。突き当たりに個室(Room5)がある。
Room5(11.59平米) 注:10月1日時点で入居中
Room5から、南側・中庭および濡れ縁の眺め。
共有部/濡れ縁。
かつての中庭はもっと広く、池もあり、鯉などが飼われていた。子供たちが暑い夏に水遊びを楽しんだ庭でもある。シェアハウスにするに際して池は埋め立て、廊下とひと続きの広いぬれ縁を新たに設けた。
縮小した中庭には、洗濯竿の固定柱と、入居者のための駐輪場が設けられた。上の画面、左奥の扉の先が勝手口に続く。
濡れ縁を挟んで、Room5の対面にある2部屋(Room1、2)の眺め。
かつては千峰おばあちゃんのお孫さんたちの部屋だったところ。
Room1(9.93平米)注:10月1日時点で入居中
Room2(9.93平米)注:10月1日時点で入居中
開口部の上のロフト収納やクーラーなどは新たに追加したが、ガラス、仕様はほぼ当時のまま。手入れしながら長く大事に住んでこられたことがわかる。
Room2の内部から、中庭・濡れ縁側の眺め。
部屋の隅に置かれているのは、昔懐かしい足踏み式のミシン。
Room3(9.47平米)注:10月1日時点で入居中
明治の洋館のような雰囲気。腰高の格子窓の向こうに、赤と緑の葉をつけた植木が透けて見える。
Room4(10.14平米)注:10月1日時点で入居中
Room3と4の間にある共有部。角型ボウル2連が付いた洗面。木の扉の奥がトイレ。

広間の卓上には、千峰おばあちゃんをはじめ施主家族がこの家で過ごされた想い出の数々ー白黒やカラーの写真が、小さなアルバムに綴じられて置かれていた。
写真を見ながら、いろいろな話をお施主から聞く。写真などには収まりきらない日々が、かつてこのひとつ屋根の下には在った。何しろ、築85年というと、昭和4年(1929年)の竣工。戦争よりも前、世界恐慌が起きた年である。今後はシェアハウスとして、新しい住まい手たちが、それぞれの時間をこの家で刻んでいく。
晴天のこの日(土曜日)、濡れ縁に「お茶席」が設けられ、居合わせた見学者に抹茶と季節の和菓子がふるまわれた。上の画は、ウカツにも次席に座ってしまい、お茶席の作法を思い出そうと必死の最中の一枚。

そしてこの日、会場にはお施主の知人が代わる代わる顔を出し、互いの旧交を温めつつ、建物の存続を祝福する光景が何度も見られた。新たな屋号である「わの家 千峰」の「わ」は、和風建築の和、昭和の和、人と人とが繋がる環・輪を表している。幸先の良い門出だと、見ているこちらも幸福な気分になった。
募集戸数は5室だが、2014年10月1日の時点で全室入居中。共催費など詳細は、下記「わの家 千峰」公式サイトを参照のこと。

シェアハウス「わの家 千峰」
http://bluestudio.typepad.jp/senpo/

 



+飲食のメモ。
往路の途中で見かけた「喫茶ハレの日」にて、 見学後の休憩とメモの整理。

店内は珈琲の良い香りでいっぱい。奥の一角を重々しい機械が占めていた。公式ブログには「自家焙煎の店」とあるので、そのマシンだろうか。

スタンド付きサイフォンでサーブされる。これで消費税込500円とは、うれしい。
とても美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

「喫茶ハレの日」ブログ
http://ameblo.jp/seikouuki/