「法隆寺」展 と「別品の祈り展」@藝大

上野の東京藝術大学美術館で開催中の「法隆寺 祈りとかたち展」と「別品の祈り展」を見る。会期は共に6月22日(日)まで、前者は有料、後者は入場無料。
過日、NHK日曜美術館「祈りの仏画 鈴木空如と法隆寺金堂壁画」で紹介された、画家の鈴木空如の「法隆寺金堂壁画模写」(秋田県重要文化財)は、昭和24年(1949)に火事で焼損する前の壁画の姿を現代に伝える貴重な模写。予想以上の迫力、大満足。本展では大小1から11号まである壁画のうち3点を会期の前後半2回にわけて公開(後半:第1号大壁、第5、8、11号小壁)。空如が制作した11枚×3組全ての模写を配置も忠実に見たい(今回の出展者は秋田県大仙市

本展会場の藝大美術館(六角鬼丈設計、1999年)を出た向かいの陳列館では「別品の祈り展」を同時開催中。1Fの「4Kアニメーション」も面白かったが、2Fの「複製壁画」展示が(開催を全く知らなかったので予想外の)白眉。
同大美術家の宮廻正明教授が中心となって、2010年に取得した特許(第4559524号)質感を表現した素材の製造方法及び絵画の製作方法、質感を表現した素材及び絵画、建築用材料」は、デジタル撮影+最新の印刷技術×画家と職人の技があわさって、従来にない原寸大での再現が可能に。
会場の解説パネルに基づく再現手順は以下の通り。
原本に施された下地の技法材料を検証し、和紙に壁面の質感や量感を再現。原本の写真資料をデジタル化し、色調補正、欠損補正などのレタッチを行ない、出力原本と同じ素材の絵具(註:顔料など)を使用し、芸術家の観点から補彩している。
この「複製壁画」が(法隆寺の原本を見た事がないし、比較のしようがないが)凄かった。最初、下地が紙とは全く気付かず、コンクリか漆喰かと思った。
上の画増(左)は、第12号小壁 十一面観音菩薩像を再現したもの。

左端から、第4号小壁 勢至菩薩像、第5号小壁 菩薩半跏像、第6号大壁 阿弥陀浄土図、第7号小壁 菩薩像 、第8号小壁 文殊菩薩像、第9号大壁 弥勒浄土図。

左から、第1号大壁 釈迦浄土図、通路を挟んで、第2小壁 菩薩半跏像、第3小壁 観音菩薩像。

往時の金堂の内部仕様をイメージして、エンタシスを強調した柱と組物は朱色に(このほか、複製壁画が埋まっていない柱の間は、木の質感を出した”戸板”に、うっすらと仏サマの姿が描かれていたが、それはあくまで演出上のイメージとのこと:会場係員談)

上の画像:第1号大壁 釈迦浄土図の部分。

原寸大とはどれくらいの大きさか、人間(展示スタッフ)と比較。
上の画像、右側は第3号小壁 観音菩薩像。下の画増は同図の部分。
テクスチャーのリアルな再現っぷりがわかるだろうか。
上の画増は 第11号小壁 普賢菩薩像の部分、下の画増は全体像(画面右側)と第10号大壁(画面左側)

東京大学総合研究博物館 デジタルミュージアム~法隆寺金堂壁画
www.um.u-tokyo.ac.jp/DM_CD/DM_CONT/HORYUJI/HEKIGA/INDEX.HTM


第1から11号まで再現した複製壁画と、焼損後の(現在の)状態が比較できるパネルを見ると、やはり胸が痛む。
2010年に藝大が特許を取得した際には、NHKのニュースや全国紙でも取り上げられたようだ。
タキペーパーダイレクト「和紙の新聞紙」記事
http://takipaper.jp/blog/news/2010/09/27-1.html#news-1
朝日新聞社 asahi.com 記事(2010年10月13日)
www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201010130323.html

この特許は「壁画の利用の他にも、岩を模した壁紙材や建築材料としての利用」も想定している(前述の解説パネルよりテキスト一部転記)が、大きな効果が得られるのはやはり滅多なことでは一般人の目には触れない「壁画」の再現展示だろう(激混みだった「キトラ古墳壁画」もこの方式で見たかった)
福岡県筑後市に昨年4月27日にオープンした《筑後広域公園芸術文化交流施設》(愛称:九州芸文館、本館設計:隈研吾建築都市設計事務所の大交流室に常設展示されたアートウォールでも見られるらしい。「法隆寺金堂壁画」のほか、韓国の「高句麗古墳群 江西大墓 四神図」に描かれた青龍、中国の「敦煌莫高窟第57窟南壁」の3つが、原寸大で再現されているアートプロデュース:同館副館長伊東順二氏)

福岡県庁ニュースリリース~「九州芸文館開館1周年記念式典」~「アートウォールIII(敦煌壁画)」除幕式
www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/geibunkan-1syuunen.html

なお、《九州文芸館》の本館棟とアネックス2の設計は、隈研吾建築都市設計事務所、隣接する同《アネックス1》は、末末弘和+末松陽子/SUEP.がそれぞれ担当している。

参考: sathankusuTV オープン初日のニュース映像(youtube)
www.youtube.com/watch?v=S76AKI-fXY4

本展は、美術館本館での「法隆寺展」との並行した開催だが、平成25年度から始まった産学協同PJ「センターオブイノベーション(COI)プログラム」における研究成果発表展でもある。

東京藝術大学 アートイノベーションセンター
http://innovation.geidai.ac.jp/index.html




+飲食のメモ。
東京藝術大学美術館の2Fには、国立東京博物館(トーハク)と同様にホテルオークラが運営するミュージアムカフェがあり、今回の「法隆寺展」にあわせた特別メニューも幾つか用意されているのだが、混んでいたのでヨソで休憩。藝大とトーハクの中間に、昨年9月にオープンした「上島珈琲 黒田記念館店」へ(注:下の画は4月初旬、桜の季節の頃)
競合他社にはない上島ならではのメニュー「アイス黒糖ミルク珈琲」のSサイズ(税込355円)は時々、飲みたくなる味。

13時過ぎ、注文待ちの行列が店の外まではみ出ていて、数人先でランチも売り切れに。テイクアウトが多いのか、2Fにも席数があるからか、梅雨の晴れ間のこの時期、オープンカフェ席は数席空いていてた。交通量も多くなく、気持ちが良い(スタバの上野恩賜公園店も開放的でステキだが、だいたい混んでいて、席とりは激戦に)
左の画像には写っていないが、右側には大きな冬季用屋外ストーブあり。喫煙不可の全面禁煙。

上島珈琲 黒田記念館店
www.ufs.co.jp/shop-search/shop_id/678