読書感想『京都迎賓館 ものづくりものがたり』

図書館でたまたま目に入り、借りて読む。テレビ番組(NHKプレミアム「京都迎賓館『極める!京都の技とおもてなし』」「たけしのアートビート」)で見聞きし、うろ覚えだった情報を補足。


《京都迎賓館》は、東京都の迎賓館(旧赤坂離宮)に対し、平安建都1200年を迎えた京都に、日本建築による迎賓館をという地元の切願のもと、京都伝統の匠の技を結集させた超大型PJ。構造はRC造、ニッケル・ステンレス複合パネル(制作:淀川製鋼所)による入母屋屋根で覆わた平成の数寄屋建築。立ち上げからの中心人物の一人である中村昌夫氏が掲げた「現代和風」と「庭屋一如」の精神のもと、京都を代表する11の伝統技術(大工、建具、左官、表具、錺、截金、漆、畳、作庭、石造工芸、竹垣)と最新の建築技術とが融合した奇跡の産物。1994年(平成6年)の閣議決定から11年後の2005年(平成17)4月に竣工、5月に開催されたASEAN外相会合で海外からの賓客を迎えた。

檜の一枚板を漆塗りで鏡のように仕上げられた長さ12mの座卓、藺草からつくった京畳、木造では不可能だった8m持ち放しの敷居と鴨居、16mの土庇、 建設地から出た聚落土による佐官仕上げの壁、唐紙や京縫による襖、鉄釘を一切使わない京指しものによる照明器具、「むくり」をもたせた沓脱石、蒔絵、螺鈿、段通( 制作: オリエンタルカーペットほか)、綴れ織による壁面装飾( 制作: 川島織物)、西陣織のファブリック、桐塑人形、 いったん仮り組みしてから現場に持ち込まれてクレーンで据え置かれた46tもの巨石による作庭、石灯籠、和舟、新潟県山古志村からきた錦鯉、竹垣、錺金物(金という字に芳しいとかく)・・・等々、匠の技の粋が結集、どれも「凄い」の一言に尽きる。
前例がない規模の木材を使いつつ、現代建築の高気密な空間で、材が反らないか、どの程度伸縮するか、相当の難題だったろう。だが、現場(仕事)が無ければ、技術は進歩しないし、継承もされない。これらの技術が未来に残ったのは素晴らしい。竣工後も「京都迎賓館を見守る会」が年に一度の会合を現地で開き、修復の必要有無や、経年変化する建物や庭の「生長」を確認している。
惜しまれるは、驚異の截金装飾で、藤の間(晩餐室)の檜板の扉に「響流光韻」と、桐の間の欄間に「日月」を制作した江里佐代子が、訪問先のフランスで7年前に急逝されたこと。

見た目にはわからないが、大池の下に機械室があり、冷暖房機器も床下に設けている(足下から送風がくるので、障子などをつくる建具職人は乾燥による反りが出ないよう苦心した)。

施工体勢は 環境アセスメントへの配慮も怠りなく、同書には厳重な管理の一端も収録されている。巻末に11Pにわたって関係会社と所属する氏名が並ぶ、これは書籍としては異例の掲載だろう。


《 京都迎賓館》については、以下のサイトの解説が詳しくわかりやすい

内閣府 京都迎賓館(政府インターネットテレビ動画2本)
http://www8.cao.go.jp/geihinkan/kyoto/kyoto.html

京都新聞 特集アーカイブ
http://www.kyoto-np.co.jp/info/education/geihinkan/070521.html

同書は日刊建設通信新聞社より、2005年11月刊行。追加資料として『京都迎賓館 現代和風と京の匠の調和(ハーモニー)』(淡交社、2006)と村井修氏撮影による写真集『京都迎賓館』(平凡社、2010)で借り、手元の『図説 日本の住まい』(建築資料研究社、2009)掲載の建築用語と引きながらもう一度読む。難儀して疲労したが、眼福であった。