ふじようちえん《キッズテラス》オープンハウス

立川市にある「ふじようちえん」にこの7月、3棟めとなる新施設《キッズテラス》が竣工している。年数回開催される園舎見学会の場で、施設内部そのほかが部外者に公開された。
《キッズテラス》北側全景。
敷地の北東に位置し、鉄骨造(耐火建築物)の地上三階建て。屋上中心部に植栽がみえる。窓まわりは農家の軒先のような雰囲気。


開園以来、「モンテッソーリ教育」に基づいた、子ども"自らが育つ力"を引き出そうとする、自由でのびのびとした教育プログラムを実践している「ふじようちえん」。加藤園長の理想のひとつの顕れといえるドーナッツ型の園舎(2007年竣工、設計:手塚建築研究所)が、日本建築学会作品賞はじめ各方面で賞を受賞するなどして有名(詳細:同園公式サイト〜受賞歴を参照)。
駐輪場に置かれたロードコーンのカラフルさからして、園内に足を踏み入れる前から楽しい気分になってくる。
《キッズテラス》西側全景。
建築概要:
意匠:手塚貴晴+手塚由比/手塚建築研究所、 構造:大野博史/オーノJAPAN、 照明:角舘政英/ぼんぼり光環境計画、 植栽(屋上):山﨑誠子/GAヤマザキ(同社facebook)、 施工:前川建設


同施設には1Fからも出入りできるが、2Fの南東部分とドーナッツ型園舎の屋上の一部も連結している。
先ず、目を奪われるのが、軒先に吊るされた野菜類だ。
横にわたした竹竿に吊り下げられた皮付き玉葱。3Fの軒下にはトウモロコシが吊られ、既に乾燥した状態。さらにトマトや茄子の空中栽培、干されたとうがらしやイネの束なども目にする。
2F北東側。
軒下には野菜のほか、子ども用の小さなテーブルとベンチも置かれている。
吊り下げられたトマト(空中栽培といい、水や養分の吸収が良いなどの利点があるらしい)。
トマトの枝越しに、2F保育室の眺め。
同保育室。2Fは主に英会話教室の場となる。
2F保育室(西側、先ほど玉葱が吊られていた軒先の奥の部屋)。

南東側の階段から3Fヘ(下の画像は3Fからの見下ろし)。
これら軒下に吊られた野菜は、園が所有する農園で育ち、収穫されたもの。この後、加藤園長が見学者を前に語るには、食べ物がどのようにしてできて、どのような食べ方があるのかを、子どもらに体験してもらうための、いわゆる食育の一環とのこと。

3Fの保育室がひと続きの和室なのも、現代では失われつつある日本の文化を、子どもたちに体感して欲しいから(加藤園長が"畳のアクティビティ"として一例に挙げたカルタなどは、確かにカーペットではなく畳の上で遊ぶのが正しいと思われる)。和室は冬場には掘りごたつも置けるようになっている。
3Fの軒先もトウモロコシが鈴生り(カラスに食べられたりしないのだろうか?)
階段は東西に必ず1つはあり、園児らが走り回っているであろう日常の光景が思い浮かぶ。正面:階段下に、まるで秘密の作戦室のようなテーブルと椅子が。
屋上。
手塚貴晴氏が「木陰が欲しかったので」植えたオリーブがシンボルツリー。最初から大きい木を植えると、台風などで強風が吹くと倒れる可能性があるので、今は未だ若木。いずれ収穫される実も、将来の園児らの口に入る。
水場の脇、大人が中を覗けるくらいの壁に囲われた部分には、1Fの厨房と繋がっているダクトの排出口が収まっていた。
ストーブかバーベキューセット置き場かと思いきや、スタッフに訊くと「子どもたちの隠れ場所です」との回答。
この後、11時から、加藤園長と手塚氏が代わりばんこにマイクを握り、《キッズテラス》をはじめとする施設の説明が行なわれたが、両者の話を聞きながら、このような「子どもが隠れることの出来る(でも見つけられる)空間」が、要所に必要なのだなと思った。
屋上と3Fを結ぶ階段上から、干しトウモロコシ越しに、ドーナッツ型園舎の眺め。
"干し場"について、手塚氏は事務所のスタッフに「付けられるだけ付けろ」と指示したそうだ。「建物が見えなくなるくらいやって欲しい。何だかよくわからない外観になったその時こそ、この建物が完成した姿。5-6年先かな」と手塚氏。
楕円の園庭と《キッズテラス》を結ぶ、園舎1F通路。 左側は子ども用トイレで、水場には最新のセンサー式でなく、押しボタン式の水栓金具が並ぶ。園内には、ひと昔前には当たり前だった蛇口水栓、リモコンではなく紐を引っ張って消点灯する電球式照明などが使われている。手塚氏や加藤園長が云う「懐かしい未来」は、ちょっとだけ不便だが、その不便さが、園児らに工夫を生み出させるきっかけになるのだそうだ。
園舎を背に、地上から《キッズテラス》の見上げ。
軒先では茄子などを栽培中。
1Fにはフロアの約1/3を占める厨房と、広いランチルームがある(閉められた間仕切りの向こうでは、園児らが茶話会なるものを開催中)。園での給食には、前述の野菜以外にも隣室で焼いたパンや炊いた雑穀米などが出される。
フローリングは杉材。1Fのテーブルと椅子は既製品。
大判の合わせガラスの仕切り戸の向こう(見学時は立入禁止)、奥の黒い薪ストーブは特注品。手塚事務所の住宅作品のリビングでよく見られるキューブストーブをつくっている工房によるもので、鍋やらいろいろなものが上に置ける大きめのサイズになっている。
園舎屋上から見た《キッズテラス》。
手塚氏の説明を要約すると、段々になっているテラスは、教室というより「お店」に入っていく感覚を表現したもの。建物の中にはいろんな部屋(店)があり、先生(店主)が英会話をしていたり、1Fではパンを焼いていたり。インドのマーケットのようなイメージらしい。

手塚氏はこのほか、空間の在り方の一例として、昨夏に開催された第37回渋谷コロキウムで対談した大橋力氏の示唆とみられる、音(無音/雑音)と人間との関係性ーー例えば、無響室に入れられたら人間は45分くらいで平常ではいられなくなる、静寂な空間ほど子どもは落ち着かず、ある程度の雑音があった方が先生の話を集中して聞くーーなど、この8年間で見聞きした事象についても触れた。
そんなこんな、大人たちのハナシの最中も、子どもらは滑り台で夢中になって遊んでいる。何故に子どもは滑り台が好きかについて加藤園長が解説した際、全見学者の目がこの子らに注がれたが、全くお構いなしの体にただ感服。
エンボス加工付きで、傾斜も緩やかなので、逆方向からでも昇れてしまう滑り台。地上からの見上げ。
南側の保育室「川」を通して、園庭を挟み、向かいの園舎の眺め。
天井から照明のスイッチ紐が下がっている。
画面右側にはガラスで囲われたケヤキの樹が鎮座している。2007年にこの園舎を新しく建てた際、切らずに残し、屋根の開口からニョッキリと突き出させた。
ケヤキは敷地の南側に集中しているので、夏場は良い木陰となるだろう。このほか、敷地内には、桜はもちろん、すもも、みかん、プルーン、お茶の木などが育てられ、実に多種多様な植栽に囲まれている(ふじようちえんのパンフレットより)。
敷地南東側に建つ《ツリーハウス(Ring Around a Tree)》。竣工は2011年、卒園者も通える英会話教室として使用されている。元から在ったケヤキをぐるりと囲み、根を傷めぬよう設計された。園舎および《キッズテラス》と同じく、設計:手塚建築研究所、構造:オーノJAPANが担当。
《ツリーハウス》屋上から、園舎の眺め。右奥に《キッズテラス》が見える。
園庭の日時計ポール上ではためく「ふじようちん」各組の旗。園児らの手形が付いていたり、絵柄はそれぞれ。
園庭にて、ごま(胡麻)の枝を干したものが積まれていた。男の子たちが始めたチャンバラごっこはさすがに大人らが諌めていたが、羨ましい限りの食育環境である。

同園公式サイトの案内(ようちえんガイド)によれば、年内の見学会は11月8日(土)に予定されている(要事前予約)。

ふじようちえん
http://fujikids.jp