丹青社「人づくりプロジェクト展2014」@アクシスギャラリー

(株)丹青社主催による、この時期恒例の「人づくりプロジェクト展2014」が、六本木のアクシスギャラリーで始まった。
同PJは、基礎研修を終えて部署に正式配属される前の丹青社の新入社員が、二人一組となって、第一線で活躍するデザイナーや職人と共に、ひとつのプロダクトを完成させる、というもの。2009年に「SHELF(シェルフ、棚)制作研修」となり、配属先に関係なく全新入社員が参加する体制となった。そのルーツである2005年の「什器制作研修」では具体的なテーマ設定があり、以降の制作実習においても、デザイナーが考えたモノをただ作るだけだったが、今ではデザイナーは最初にイメージだけを伝え、後は新人が主体となって進める恊働PJとなっている。限られた予算と日数(約100日)のなかで、新人たちは実践的な「ものづくりのための人づくり」を学んでいく。

2009年からのテーマ「SHELF(シェルフ)」にかわり、今年は"棚"という垣根を取り払って「○○の居場所」をテーマに掲げた。
12組の参加デザイナー:芦沢啓治、SOL style、角田陽太、小林幹也、鈴野浩一、寺田尚樹、長岡勉、鳴川肇、橋本潤、DRILL DESIGN、藤森泰司、湯沢幸子(主催者発表順、敬称略)

以下、フライヤーのナンバリング12からさかのぼって紹介する(会期初日10月3日に開催されたトークセッション出席者の発言内容からもその一部を引く)
12.「fit」湯沢幸子(丹青社画面奥は後述2と3の作品
素材:カラマツ集成材、スチール、竹材、ジャージー生地
出展者は果物好きで、自宅の庭でも育てている。ベリーやいちご、いちじくといった皮の薄い(脆弱な)果物のための「居場所」を用意した。
制作コンセプト、使っている素材、チームの顔ぶれなどは、壁に掛かったバナーで確認できる。バナーから伸びたオレンジ色の糸(水糸)が天井面をつたい、プロダクトが置かれた場所まで来場者を案内してくれる。オレンジ色はフライヤーでも使用されているテーマカラーで、"挑戦"の意志が込められている。
バナーの右下には、デザイナーが最初に描いたイメージスケッチもあり。この一枚のラフ画を元に制作が進められる。元の画と、完成したプロダクトを会場で見比べるのも面白い(上の画は「fit」のバナー)
会場構成は出展者の一人で、丹青社のデザイナーとして《有楽町献血ルーム》《JPタワー学術文化総合ミュージアム インターメディアテク》の内装も手掛けている湯沢氏。

11.「DESKTOP GARDEN」長岡勉(POINT
素材:人工大理石、クラフトペーパー
デスクの上の小物たちーポストイット、消しゴム、鉛筆などーのための居場所。「見ようによっては建築に見えなくもない」(長岡氏談)。

10.「MEDAKA DROP」寺田尚樹(インターオフィス
素材:宙吹きガラス、ステンレス、ウェンジ突板、アクリル樹脂
上部の円孔から絶えずチョロチョロと水が噴き上げ、中に棲まうメダカと水草に酸素を提供する。作品名のDROPとは宇宙空間に浮かぶ地球をイメージしたもので、ひいては、空気で満たされた人間の世界を、メダカと水に置き換えて表現した。

9.「bichette」藤森泰司(藤森泰司アトリエ
素材:ホワイトオーク材、シナ合板、スチール
化粧台、PC作業台などさまざまな使用場面を想定した、最小限のライティングビューロー。藤森氏いわく「ひとりのための居場所」。

8.「まる/しかく」橋本潤(フーニオデザイン
素材:オニグルミ材、スチール
丸い天板を2つの四角いスチールが支える、シンプルなミニテーブル。
外した天板は簡単に元に戻すことが出来た。
"ふわりの居場所"と題して橋本氏が最初に描いたラフスケッチは、"空飛ぶじゅうたん"。
橋本氏は「前回とほぼ同じスケッチを描いたのに、去年とは違うモノが出来た」とトークセッションの席上で語り、参加デザイナー各氏から特に爆笑を誘っていた。このような、いわば予定調和外のことが起こりうるのが、このPJの面白いところではなかろうか。

7.「skiff」小林幹也(小林幹也スタジオ
素材:ポプラ突板、シナ合板、ガラス材、スチール、ゴムリング
小舟をイメージした、どこにでも持ち出せる"書斎"。木の天板はくるりと回転させて場を拡げられる。

6.「PAPER TROLLEY」林裕輔・安西葉子(DRILL DESIGN
素材:エコシラ合板、スチール
事務所で汎用性の高い模型用の紙やスチレンボードなどを収納した"大判用紙の居場所"。
トークセッションに参加した林氏の談:「前回は自分のやりたいことをやったが、今回は新人に任せ、先ずは紙の保管、抑え(留め)方から考えて貰った。自分では最終的にワゴンが良いだろうと判っていたが、口は出さずに化学反応が起こることを期待した」。

この実践型研修には、模型など作ったこともない文系出身者も等しく参加する。頭の回転も手ワザも早いプロの側からすれば、「いつもならさっさと画を描いたり模型も作るが、このPJではそれが出来ないので正直イライラする」(藤森氏)、「出来映えには決して満足はしていない」(長岡氏)など、新入社員との恊働PJならではのジレンマもあるようだ。
キャリアからして格段に上のデザイナーや、メーカー各社の職人たちとの中間で立ち回り、時に素材集めなどに奔走する新人達には、専任の教育チームがつく。とはいえ、あくまで新人が自発的に
成長してもらうためのバックアップでしかない。「○○の居場所」とは、新人それぞれが"自分の居場所"を見つけ出すためのお題でもある(同PJの中心メンバーで、トークセッションに出席した丹青社/松村磨氏の談)

今回が初参加となったSOL styleの二人は、逆に「新鮮な経験であり、思いもよらないものが出来て楽しかった」と語る。タイトルの「Right up」とは、斜めに組んだ格子のいわば"右肩上がり"からきたシャレで、普段ならこのような発想でネーミングはしない、とのこと。
5.「Right up」伊東裕・劔持良美(SOL style画面左奥は後述・芦澤啓治作品
素材:タモ材、スチール
斜めに置ける"本の居場所"。角材は取り外し可能で、新人二人が約40分で組み立てた。

4.「Groove Shelf」角田陽太(YOTA KAKUDA DESIGN
素材:シナ合板
中板を外せて自由にレイアウトできるシェルフ。骨董市で入手した印鑑入れが発想の元らしい (丹青社/松村磨氏の説明)

会場奥の壁面では、今回のPJに参加した全新入社員へのインタビューや、2011年から数えて計4回、本展開催に協力しているアクシスの担当キュレーターからのメッセージ(佐野氏へのインタビュアは本展トークセッションでファシリテーターを務めたフルタヨウコ氏) などを収録した約50分の映像も流れている。
3.「MY STOOL」芦澤啓治(芦澤啓治建築設計事務所
素材:シナ合板、スチール、ラワン材、ホワイトオーク材、ホワイトオーク突板
キッチンの片隅に置けるようなサイズ。引き出しを外すと、大きめの盆にもなる。
PJ初期から参加している芦澤氏のデザイン傾向は例年同じで、10年かけて「極める」とのこと。

2.「ダイス」鈴野浩一(トラフ建築設計事務所
素材:シナ合板、ラワン材、カラーゴム
使い手が成長してもずっと長く仕える家具を目指した。先ず小さな子供のテーブルと座になり、2台あればその隣に親(大人)も腰掛けられる。台(テーブル)+椅子、もしくは収納棚としても利用できる。設置面は1つきりではなく、転がして、好きな据え置き方にできる。

1.「かくれんぼの引き出し」鳴川肇(AuthaGraph
素材:アメリカンチェリー材、シナ合板、化粧合板、ステンレス(ふた裏面)
50cm角の"からくり箪笥"。上の画は引き出しをおさめた状態、下は2方向の引き出しを外に出したところ。見た目にはわからない、箱根細工のような"仕掛け"が凝っている。
2つの把手を持ち上げると、底板が外れ、下の階層が現われる。把手自体もマトリョーシカ構造になっており、何かを隠せる場所になる。「所有物にもプライベートとそうでないものがある」とトークセッション時に説明していた鳴川氏は、佐々木睦朗構造計画研究所の出身。画期的な世界地図「AuthaGraph World Map」や、10,362枚の角パネルで球体を再現した《日本科学未来館》の「ジオ・コスモス2」(2011)の基本設計・実施監修者である。昨秋開催されたデザインイベント「Any Tokyo 2013」には、テンセグリティー構造のツリーとテーブルを出展していた。
ふたを裏返し、ステンレスの面を上にした状態。これだけ見ると、このモノが何であるのか、さっぱりわからない。

バナーを上から下に貫く、オレンジの水糸の影は、制作チームの誰かしらの掌上に落ちたり、かすめたり、伸ばした指先が捉えようとしたり、12枚それぞれで異なる。フライヤーに使われた大小3つの手も、丹青社の新人、デザイナー、職人の三者三様のものである(グラフィックデザイン:小泉均+宇野智美/typeshop_g)
QRコードは会場内・作品の傍らに下がった番号札の裏面にもあり、アクセスすると、制作チームがそれぞれに学んだ「一言」が表示される。

会期は10月7日(火)まで。開廊時間は11-19時(最終日は17時まで)。入場無料。

丹青社「人づくりプロジェクト展2014」ニュースリリース(2014.9.8発信) http://www.tanseisha.co.jp/news/info/2014/post-12889

アクシスギャラリー「人づくりプロジェクト展2014」
http://www.axisinc.co.jp/building/eventdetail/350





+飲食のメモ。
階下にある「IMA CONCEPT STORE(イマコンセプトストア)」のカフェにて、19時からのトークセッションが始まる前に小休止。
前回訪問時8月28日のブログでは触れ忘れたが、三軒茶屋の「OBSCURA COFFEE ROASTERS」が監修している「IMA Cafe」。
前回いただいたコーヒーもおいしかったが、「カフェ・ラテ」も一口飲んで「うぁー、おいっしー」とオッサンのように唸ってしまった。
ごちそうさまでした。

IMA CONCEPT STORE
www.imaonline.jp/list/imaconceptstore