《市原湖畔美術館》初訪問

千葉県の《市原湖畔美術館》を初見学。房総半島の内陸に位置するダム湖・高滝湖の東側のほとりに建つ。
高滝湖に東西にかかる加茂橋を走行中の車窓から、同美術館遠景

《市原湖畔館》は、1995年(平成7)11月にオープンした「市原市水の彫刻の丘」の展示施設を元とする。市制施行50周年事業として計画されたアートフェスティバル「中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス*」や、地域振興の中核施設となるべく、リノベーションを前提とした2010年のプロポーザル・コンペにより、有設計室(改組名:川口有子+鄭仁愉/カワグチテイ建築計画)が選出され、2年間の改修工事を経て、昨年8月3日に《市原湖畔美術館》としてリニューアルオープンしている。

注記.本件のテキストは、会場配布資料のほか、以下の資料を参考にした。
・市原市平成24年/2012年度予算資料 PDF(P20)
・開館前のプレスリリースPDF(2013.5.29発行)
・美術館公式サイト>ABOUT>デザインコンセプト
・川口氏と鄭氏が登壇したAGC studio主催「第35回デザインフォーラム」リポート
・月刊『新建築』2013年9月号


*「アート×ミックス2014」は今春開催。みかんぐみが教室の再設計を担当した「旧里見小学校」再生展示「IAAES(Ichihara Art/Athlete Etc School:市原芸術・スポーツ・エトセトラ学校)、2012年4月に小湊鉄道飯給(いたぶ)駅前に建てられた藤本壮介氏による「 Toilet in Nature」も出展作品に数えられている。

湖の東側、県道173号線に接道したエントランス。
エントランスのL字看板。文字は塗装だが、直角に曲がった矢印はスチールに角孔をあけたもの。
敷地に入って正面、緩やかな弧を描いた外壁上部に見える立体は、水面をイメージした美術館のロゴマーク。
駐車場はこちら(左折)、出る場合はこちらと誘導してくれる、路面に大きく描かれた白い矢印が2つ。
第1駐車場「車いすマーク」のサイン。
駐車場はこの奥に第2駐車場、県道173号を南に少し走った左手に第3駐車場が用意されている。
バックで車を駐車して、降車した正面の折板の壁面に、美術館入口はこちら(右)と誘導する大きな黒矢印が。これは、改修前の建物の入館エントランスが駐車場/道路側にあったためと思われる。
同サインを斜め横から見た場合。正対した時に文字が現われるようになっている。スチール折板の表面は、亜鉛メッキ仕上げ。
以降、度々登場するサイン計画、ロゴデザインは、色部義昭氏(色部デザイン研究室/日本デザインセンター)が担当(今年の「竹尾ペーパーショウ」に出展した作品「I HATE U/I LOVE U」の印象が新しい)
リニューアル後に新設された収蔵庫の搬入口。
以前はこの辺りに入館エントランスが置かれていたらしい。
こちらは第1駐車場北側の敷地境界線。網フェンスの一部を白く塗装し、文字を浮き出させている。これは開館後に追加されたサインとのこと。
前述の「ロゴマーク」は、実は恒久展示作品。房総半島にちなんで詠まれた詩歌(万葉集、正岡子規や与謝蕪村の俳句など)が読みとれる「Watermark」(2013)、作者は色部義昭+アートフロントギャラリー。
建物の北側の小径が、美術館へのアプローチ。奥に既存の展望塔(恒久展示作品)が見える。
アプローチ手前の案内板で全体のレイアウトを確認しておく。ちなみにこの鉄板の裏側に郵便受けがあった。案内板の表面仕上げは粗く、このテイストは全館に共通している。
人造湖にやや突出した敷地。県道側の外壁2枚が弧を描いている特徴的な建物が、増改築された《市原湖畔美術館》。湖に面した緑豊かな好立地と環境を生かそうと、設計者は緑の芝生が広がる広場側から入館させる動線に変更した。
建物の前、入館口付近からの眺め。素晴らしい。
右:恒久展示作品:篠原勝之「飛来」(1999)
左:藤原式揚水機(展望塔)(1993)
リニューアルに際して新設されたレストランへのアプローチ。
足下にもなにやら森の妖精のような作品が。
屋外の恒久展示作品は湖上にも。重村三雄の水上彫刻「生命の星」3点のひとつ[やませみ]。
湖に近付いた広場の先から、建物の見返り。
千葉県博物館協会サイトに残る旧案内ページの外観写真を見ると、ガラスウォールと屋根が撤去されている。増築あり、前述のスチール折板「アートウォール」で囲われて、すっかり様変わりしていることがわかる。参考資料によれば、構造は残したが、仕上げ材や塗装は剥がし、壁や柱はモルタルなどで仕上げたようだ。
リニューアルに際して、「多目的ホール」など幾つかの"ハコ"が増築された。
新しい美術館の出入口。ガラス張りのミュージアムショップも増築された部分。
館内禁止事項と各階フロアマップの案内板。フラッシュをたかなければ撮影可(ブログ掲載許可も受付でいただく。但し、現在開催中の企画展「HIROSHI HARA:WALLPAPERS」は場内撮影NG)
インフォメーションカウンターのアクリルボードに開いた孔は、前述ロゴマークと同じ形状。左奥に見えているのは恒久展示作品「Heigh-Ho」KOSUGE1-16(2013)。
RCにモルタル左官仕上げの壁に白く描かれた館内フロアマップ
地下1F、1F、屋上RF。複雑そうに見えるが、実際に館内を巡ってみると、設計者が狙った「回遊性」が確保されていた(が、油断は禁物)
ミュージアム・ショップの中から、外部の眺め。緑の芝の向こうに屋外常設展示作品が、さらには高滝湖と赤い加茂橋が一望のもと。なお、周辺にはゴルフ場が多い。
ミュージアム・ショップ内、左奥が外部との出入口ドアと会計場。
什器の面材にもみられるこの特徴的な「赤」は、旭硝子製カラーガラスとのこと。
同社:設計士インタビュー 商業施設事例
https://www.asahiglassplaza.net/gp-pro/colorglass/interview/commerce08.html

入館後の動線はフリー。ミュージアム・ショップから、コインロッカーと、企画展会場のひとつ「展示室2」に繋がる通路。
展示室2との境。ガラス扉の掌が描かれた付近に手をかざすと、矢印の方向(左)に扉がスライドしてドアが開く。「消化器」の文字を含め、サインは9mm角の点線で表現されている。

ここからでも企画展会場(展示室2)に入れるが、ミュージアムショップに戻り、外のエントランスコートへ。
同館では現在、10月4日から12月28日までの会期で「原広司:WALLPAPERS ー2500年間の空間的思考をたどる〈写経〉ー」を開催中(場内撮影NGにつき、以降はチラ映りのみ。あしからず)
WALLPAPERS展特設サイト
http://hiroshiharawallpapers.tumblr.com

前述の多目的ホール、情報ラウンジ、男女トイレ、常設展示室および企画展示室1、屋上などに繋がる館の中心部:エントランスコートは、既存のガラス屋根を取り払い、円形の庇を縁にまわし、雨風が入る吹き放し空間に変わった。
作年設置された恒久展示、KOSUGE1-16「Heigh-Ho」(2013)。
奥に常設展示室と企画展会場(展示室1)への出入口がある。
1F館内から、エントランスコートの見返り。向かって右側に常設展示室(油断して見忘れる)。 ガラス扉の向こう、赤い壁パネルに囲まれた"ハコ"はミュージアムショップ。
1F館内、企画展会場(展示室1)側の眺め。
建物を囲っていたスチール折板は館内にも使われている。
左側の作品は「Heigh-Ho」と同じ作家による「Toy Soldier」(2013)。このかわいい"兵隊さん"が、どうしてなかなか侮れない(後述)
折板に白く「展示室1」と描かれたパーティションのアップ、斜め下から見た場合。
原広司:WALLPAPERS展」の場内が右端にチラ映り。
会場の照明は高橋匡太氏と川口怜子氏の二人が担当公式サイト/越後妻有「大地の芸術祭」や「Smart Illumination Yokohama」などのアートイベント、建築系では平田晶久氏と恊働したミラノサローネ出展作品「Canon Neoreal 2010」、西沢立衛氏が設計した《十和田市美術館》の夜間ライトアップなどで知られる)。閲覧用書籍や「500mX500mX500m」および2000年のコンペ応募作「トリノI」の縮尺模型など置かれた展示台の表面だけが白く浮かび上がるよう、同時に台のまわりに影が落ちていないという、実に繊細なライティングとなっている。
企画展会場(展示室1)の入口付近からの見返り。
恒久展示作品「Toy Soldier」は時おり動くらしく、起動音に驚いて振り向き、暫くすると、ゆ〜っくり"屈伸運動"を始めて止まる(居合わせた一同爆笑)
展示室1入口付近の見上げ。壁も含めて元の仕上げ材は取り払われ、天井の梁や空調機器などが現しになっている。コード類は複数で束となり、鉄道のレールのような高架の上を走っている。
1F館内から屋上RFにアクセスできるドアまわりのサイン。RFには昇降EVからも上がれる。または外に出て、エントランスコートの階段を上がるか。
エントランスコートの階段(既存部分)から屋上へ。1と2の広場がある。
屋上RFに到着。子どもが喜びそうな遊具が・・・と思ったら、階段から連続した恒久展示作品であった。 Acconci Studio(アコンチ・スタジオ)「MUSEUM- STAIRS/ ROOF OF NEEDLES&PINS」(2013)。
童心に帰ってチューブの小径を背を屈めて進んでみたが、行く手を阻まれるの画。
チューブは計700本。入館時にもらったパンフレットに拠れば、こちらの作品は夜間ライトアップがあるとのこと。
オトナになると楽しく遊べないと悟り、すごすごと1Fに戻る。
そのままさらに下のBFへと階段を下りる。
地下ホールの恒久展示、クワクボリョウタ「Lost Windows」(2013)。
クワクボ作品が在るとは知らなかったので、地下で再びテンションが上がる。

地下には男女トイレ、授乳室などがある。
女子トイレのピクトグラム。敢えて粗いモルタル仕上げの賜物か、向かいのトイレの男子は"アフロ・ヘア"になっていた(下の画)。上の画・右奥に見える、左に昇降EVがあると示す白い矢印は、この位置からだと真っすぐに見えるが、実は丸い円柱の壁に沿って描かれている。
スチール折板で囲われた展示室3では、前述の企画展を開催中。
円柱や梁が会場を縦横に横断し、天井も空調や照明吊レールなどが現しになった展示室(此処での展示は、ウッカリすると空間に作品が負けてしまうのではなかろうか)
原広司:WALLPAPERS ー2500年間の空間的思考をたどる〈写経〉ー」では、遠目には白い塗装の壁に見えるが、1091X197mmの帯状の白紙が、天井から床まで縦にビッシリと貼られている。展覧会タイトル:「WALLPAPERS=壁紙のプレゼンテーション」の意(企画展リーフレットより)。聞けば、本展終了後に「紙」を剥がしても現状復帰できる接着剤を使っているとか。
入館時にもらった美術館パンフレット、「原広司:WALLPAPERS ー2500年間の空間的思考をたどる〈写経〉ー」フライヤーおよびリーフレット。
企画展概要、展示概念、解説などが裏表にビッシリ詰まったリーフレットは、前述「1091X197mmのモデュール」と同じサイズ! 会場の壁を埋め尽くしていた紙は、シールの裏紙に似たツルツル感と光沢があったように記憶しているが、実は同じ紙とのこと(高橋匡太さんに後日確認できました)
原作品は屋外にも。新潟県十日町市《越後妻有里山現代美術館/キナーレ》で今夏開催された「全ての場所が世界の真ん中―1/100,000の妻有」に出展した作品《Three Travelers》が巡回(会場の[キナーレ]の前身は、2003年に原氏が設計した《越後妻有交流館/キナーレ》であり、「大地の芸術祭2012」開催にあわせて同年7月にリニューアル、現名称に)
旅人の姿を象った東屋(あずまや)のイメージ。
後述のレストランで昼食を終えて外に出たところ、緑の芝の上に「青空」が広がっていた。同館公式Twitterなどによれば、開館1周年記念イベントとして作家の木村崇人氏が子供たちとつくった「大空に浮かぶレジャーシート」だったらしい(てことは、寝転んでもよかったのかな)

市原湖畔美術館は月曜と年末年始が休館。開館時間は平日、土・祝前日、日祝日でそれぞれ違う。入館料など詳細は下記公式サイト参照を。
市原湖畔美術館
http://lsm-ichihara.jp




レストラン棟「Pizzeria BOSSO」にて昼食。既存の建物ではなく、昨年のリニューアルの際に新築された。外壁は美術館と同じスチール折板仕様。
地元・房総半島の食材をふんだんに扱った釜焼きピザ、ドリンクが味わえる「BOSSO」。芝生広場に面したロケーション抜群のテラス席は、テイクアウトメニュー対応のみで、例えばピザを注文すると四角いデリバリーの紙箱で供されるらしい。店内の方がメニューが豊富と聞き、迷わず入店。
ピッツア、ドルチェ、ドリンクは全て季節のおすすめからオーダー(メニューは10月11日のもの)
「房総農家のピッツア」(長南産オクラ、ゴーヤ、モロヘイヤ、ツルムラサキ+いすみ産よじゅえもんチーズ)。
ねばねば系ピッツアは初食感。"よじゅえもん"って何だろと思いつつ、訊かずに一気に食べ終わる。よじゅえもんチーズ工房の品と思われる。
セットで付けたサラダ(たしか1名様分)、ドレッシングは人参素材。
房総果物フレッシュジュースは、長南産豊水を使った「梨スカッシュ」。
"ふなっしー"はそういや千葉県船橋出身だったなと思い出す。ちょっとドキドキしたが、おお、美味しい。梨汁はつぶつぶしていた。
おススメデザート:市原産いちじくをピザ生地で包んで焼き、地元の山崎農園の生乳ジェラートを上に載せたドルチェピッツア。おいしい。かなり好きな味。

ほか、千葉の名産といえば=落花生。八街落花生と地産天然イノシシのソーセージのピッツア、銚子産イワシのピッツア、南房総名産の枇杷を使ったパンナコッタなど、魅惑的なメニューばかり。

たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまでした。できることなら、また来たい=房総の名産を食い倒してみたい。
レストラン席からの湖の眺め。釣り人のボートと、水上彫刻[湖の祭り]が見える。

アクセス:
同館公式サイトのアクセス案内に電車やバスでの利用方法、「WALLPAPERS展特設サイト」にも東京駅八重洲口発着高速バス利用のモデルコースが載っている。東京湾アクアラインを通る羽田・横浜発着、新宿西口発着の小田急高速バスなども行く前にいろいろ調べてみたが、結論として、公共機関ではなく、こまわりのきく車での往復を推奨する。東京からは車で高速を飛ばして、早ければ片道約90分。

余談:
"ほぼ地元民"情報によれば、市原ICから美術館に向かう途中、大喜多街道(たしか牛久辺り)は菜の花の名所とのこと。単線・小湊鉄道の鄙びた車両とマッチした景色は、「市原アート×ミックス2014」公式記録集の表紙を飾っていた。そういえば、街道と単線が平行して走っていた時、三脚でスタンバイした"撮り鉄"さんを見かけた。あの後おそらく、線路脇に咲いた秋桜越しに、某駅に入線する車両をカメラにおさめたことだろう。