「活動のデザイン」トークイベント聴講

21_21 DESIGN SIGHT で開催中の企画展「活動のデザイン THE FAB MIND」関連プログラムとして開催された、関係者によるトークを聴講。
先ず14時から、o+hの大西麻貴氏と百田有希氏、スキーマ建築計画の長坂常氏による鼎談「建築家の視点と『活動のデザイン』」。本展監修者の一人で、21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクターである川上典季子氏がモデレーターを務めた。

fix(修理・修繕する意)+ experts(エキスパートの複数形)が語源であるフィックスパーツFixpertsのプロジェクトに、長坂氏は今回初めて参加した。依頼主は、氏の事務所にインターンで来日していた女性。若いうちに世界各国の設計事務所で経験を積みたいという彼女は、旅先で増えた荷物が仮住まいの部屋に散乱しがち。この悩みに対した長坂氏がデザインしたのは、彼女のスーツケースに納まる組み立て式収納キット。ポケット付き収納は布とハンガーで出来ているので、足りなくなれば自分で裁縫して追加もできる。
「個の問題と解決がオープンソース化され、複数の人が手を組み、作られ、不特定多数の役に立つ。Fixperts を通して世の中の問題が起き上がってくるということに意味があるのではないか。自分がデザインのモットーとする〈"知"の更新〉は今回問わなかったが、純粋にPJと向き合えたのは面白かった」と、長坂氏は参加後の感想を語った。
学生の課題としてではなくプロに展示を依頼したのは、本展監修者としても「実はチャレンジだった」そうで、だが「目立つことを期待されない次元で行なわれるオープンソースの問題は、これからのデザインの場面ではありうること」と川上氏は指摘した。

大西氏と百田氏は、「望遠鏡のおばけ」と「長い望遠鏡」の2つを出展。「望遠鏡のおばけ」に設けられた複数の接眼部から見えるのは、他の作品の一部だったり、反転した世界。「長い望遠鏡」では、離れた場所にある某作品(後述)の一部が視認できる。どちらも単体の作品というよりは、違う視点で改めて会場を眺め、楽しんでもらうための装置である。
様々な姿勢で望遠鏡を覗き込む人も含めて作品の一部だという「望遠鏡のおばけ」の元になったのは、都内で昨秋開催されたホンマタカシ氏の写真展「Seeing Itself〈建築写真編〉」において、o+h が担当した会場構成。「長い望遠鏡」で見えるのが、ホンマ氏の出展作品の部分、というのはおそらくオマージュだろう。
2作品とも、望遠鏡の外まわりは建築用ボイド紙管で作られている。日本橋浜町にあるo+h事務所の前で「長い望遠鏡」を試作している際、その大砲のようなシルエットから、何かアブナイものを作っているのでは? という目で周囲から見られていたかも、と設計した二人は笑う。

トークの後半は、似たようなオープンな路面事務所を駒沢通沿いに構える長坂氏と、街や社会に接続しながらどのように設計活動を行なっていくか、という共通のテーマで盛り上がる。PCや頭の中では絶対に考えつかない、手を動かしてこそ生まれるデザイン、自然と構築される対人関係が、そこにはあるという。


16時半からは、インターデザインアーティストの織咲誠氏による30分のアーティストトークを聴講。
展示「ライン・ワークス ―線の引き方次第で、世界が変わる」の前で行なわれた解説の中心となった作品はR-LW012「生死を分ける境」、紛争地で使われている"地雷標石"について。氏は2003年にこの"石"について知ったという。
トークには、今回の展示に協力した、AAR Japan(特定非営利活動法人 難民を助ける会)の職員も出席。赤と白という、日本ではめでたい配色に塗装された石ころが、どのような切羽詰まった状況でギリギリの用途を成しているか、同NGOが世界各地で長年取り組んでいる活動も含めて説明があった。
上の画に左下に映っているのは、聴講者に回覧された資料で、危険な地域に暮らさざるを得ない子供たちに向けて、同NGOが作成・配布しているノートの表紙。左上のコマは、石が赤く塗られた側には地雷が埋められているので立ち入るな、と示している(右下のコマは、不発弾を見つけたら触れるなの意。不発弾があるエリアでは、青と白に塗られた石が使われる)
ニュース映像などで目にする立て看板ではなく、石が用いられるのは、木材で標識を作って立てた場合、人々が暖をとったり資材用にと引き抜いて、持ち去ってしまうから。石ころならその心配もない。但し、難点は2つ。草木が生い茂る地では埋もれてしまい、そして蹴り飛ばされたら全く用を成さない(後者の対策として、赤白の2種類の石を2列に並べることで「生死を分ける境」に)

この"標石"のほかにも、続くギャラリー2に地雷除去装置「Mine Kafon」が出展されているので、この半恒久的・無差別的・非人道的な兵器が、地球上にゴマンと埋められていると"知って"はいたが、関係者の話を直に聴くと、腹にズシリと響く。正確な埋設数は誰にもわからず、効力をなくすには1000年はかかると云われているそうだ。
今週末17日にも、織咲氏によるアーティスト・トークが行なわれる予定。3つの石の出処である紛争地での駐在経験をもつAAR職員が参加する(予約不要、但し聴講には当日入館料が必要。本展公式サイト〜関連プログラムには現時点で未掲出だが、AAR Japanの1月9日プレスリリースや、織咲氏のTwitterでは告知されている)
現地で使われている教育用ポスターを手に、AAR職員の説明を補佐する織咲氏

ミニトークの前後には織咲氏に話を聞く機会に恵まれ、R-LW032「たった1本の線は建築?」や小動物用側溝などについても丁寧に教えていただいた。
「お金をかけずに世界を変える」ことを掲げたR-LWらしく、展示什器にはダンボールが使われているが、見せ方については相当に苦心したとのこと。先ほど私は「(地雷について)"知って"いる」と書いたが、物事を知識として解し、ただ蓄えても、そこに何ら発展性はなく、肝要なのはいかにして「知恵」に転化させるかであると織咲氏は指摘する。膨大にあるというR-LWのデータをウェブ上に出していないのも、読み手がつい"知った"気になり、安易に消費されてしまわぬよう、ベストな開示方法を模索中ゆえ。会場では「ちょっとしたデザイン」などと一言では済まさずに、そこから何事かを読み解いて欲しいとのこと(R-LWでは"ちょっとした"が禁句になっている)

作品と向きあうたびに新たな発見があり、自戒をも齎す企画展「活動のデザイン」は2月1日まで。17日の14時からは、ホンマタカシ氏らによるトークイベントも開催される。詳細は公式サイト参照。

21_21 DESIGN SIGHT
www.2121designsight.jp/