「東京駅100年の記憶」展@東京ステーションギャラリー

東京駅丸の内北口改札前にある東京ステーションギャラリーにて、東京駅開業百周年記念「東京駅100年の記憶」展を見る。
英語タイトルは「A HUNDRED YEARS OF ITS LEGACY」。ITSとは、Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略であり、激動の時代と共に拡張を続けてきた、首都の玄関口たる駅舎の変遷を一望する展示となっている。

以下、撮影可の展示のみ掲載する。
来場者を最初に迎えるのは、辰野家所蔵の油絵2点、後藤慶二画「辰野金吾博士 作品集成図絵」と松岡壽による肖像画。次の間に、明治の開業当初、東京オリンピック開催直前、現代の3つの時代を比較できる精巧なジオラマがある。
駅舎などの模型縮尺は3つ共に1/500。上の画・手前から、
1914年の丸の内(ジオラマ)制作:鹿児島大学 鯵坂・増留研究)
1964年の丸の内(ジオラマ)制作:京都工芸繊維大学・木村/松隈研究室+学生有志
2004年の丸の内(ジオラマ)制作:日本大学生産工学部建築工学科・廣田研究室 亀井/渡辺研究室
辰野金吾設計、国の威信をかけて、1914年に開業した東京駅。
展覧会フライヤーに使われているモノクロ写真は、未だ鉄骨姿の「中央停車場建築」の部分(1911、宮内幸太郎)。会場2Fに目にした別作品の解説で、クレーンを導入して鉄骨を組み上げたのは、現在のIHI・当時の石川島造船所だと知る。
皇居側から、東京駅の眺め。日本を代表するオフィス街は、西南戦争(1877年、明治10)で財政難にあえぐ明治政府から三菱家に払い下げられた土地で、名を三菱が原と称した。
1964年の丸の内(ジオラマ、以下略す)、行幸通りからの駅舎眺め。ジオラマでは、旧《日本郵船本社ビル》など当時の建築物も精巧に再現されている。
2014年の丸の内(上の画と同じ角度からの眺め)。左手前・和田倉門に面して現存する前川國男設計による《東京海上日動ビルディング》がこじんまりと見えるが、建設当時はいわゆる「美観論争」の的となった。向かいは代替わりした《郵船ビルディング》。
2014年の丸の内、15本あるホームを挟んで北東からの眺め。《丸の内オアゾ》、《丸の内ビルディング》、KITTE+《JPタワー》など、超高層に囲まれた駅前ロータリー。
ビルの高さは100尺までと法律で規制されていた50年前。展示室の壁には高層化する前の空撮写真も掲示されているので、模型と比較できる。
馬場先門付近、皇居濠に面した旧《明治生命館》。南側の道路沿いには、J.コンドルが設計した《三菱一号館》がこの頃は未だ残っている(1968年に解体)
旧明治生命館の東側には、地上30階建ての「丸の内MY PLAZA」が2004年に隣接して建った。
北側に地上34階建ての超高層を伴う「丸の内ブリックスクエア」の"顔"たる「三菱一号館美術館」は2009年の竣工。美術館オープンは2010年。
北側・大手町側からの眺め。現在は高いビルに隠れてしまい、東京駅舎は見えない。上の画・正面は永代通りに面した《丸の内永楽ビルディング》。丸の内仲通り並んだ西側に、村野藤吾設計《旧日本興業銀行本店》が現存する。
時代を再び50年前に戻し、1964年のジオラマ、北側からの眺め(駅舎は左側に位置)
以前は1区画に4つほどのビルがおさまっていたが、近年の再開発ではブロックで1つの超高層が建っていると、模型を比較するとわかる。
上の画・左手前:旧《銀行倶楽部》や、右端:旧《東京海上日動ビルディング》など、失われた近代建築の往事の姿を偲ぶのも一興だが、この時代のビル独特の形状を俯瞰できるまたとない機会。
丸の内の高層化は一目瞭然。契機は1964年(昭和39)の東京オリンピック開催前に行なわれた建築基準法の改正。前述のビル建設の際、100尺で保たれていた景観が損なわれるとして「美観論争」が巻き起こったが、今となっては遥かなる"昔話"だ。
1914年当時の光景。他にも建物は点在したろうが、野っぱらに出現した赤煉瓦の街区と東京駅舎は、さぞ異なる光景で、文明開化の象徴だったろう。

さて、本展では、毎30分に展示室の照明が落とされ、2つのジオラマに灯が入る。
1964年丸の内(ジオラマ)。上は消灯中、下は通常照明点灯後(名残惜しげな撮影者多数につき、スタッフの厚意で数分の間だけジオラマの消灯を待ってくれた)
残念ながら、2014年の模型は灯らない。
アクリルの透明なビルは、2016年2月竣工予定の「(仮称)三井住友銀行本店東館計画」。今回のジオラマの領域外だが、さらに北側2ブロック先では「星のや東京」が2016年春開業を目指す。2064年の丸の内はどうなっているのやら。
参考:一般社団法人大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会「再開発マップ



続く第2展示室にも大型模型あり。英語タイトルになっている「ITS」について理解が深まる展示。 天井から吊られている作品は「東京駅体 模型2014」
縮尺1/200 模型制作:田村圭介+昭和女子大学環境デザイン学科・田村研究室
展示室いっぱいに展開された東京駅丸の内および八重洲側の地下街の立体模型(400×700cm)。複雑に積層した地下空間であると改めてわかる。なお、縦方向はわかりやすく2倍の尺で表現されている。
上の画:北東側からの見上げ。右側から南に向かって真っすぐ伸びているのは、千代田線大手町駅から、千代田線二重橋駅、都営三田線日比谷駅と繋がる地下の世界。さらに有楽町線有楽町駅ホームまでを模型では再現(注.展示は乗換可否を表すものではない)。なお、東銀座の地下空間までは展示室に収まらなかったとのこと。
東京駅の南側・武蔵野線と京葉線のホームから、駅舎方向の眺め。京葉線はどうしてこんなに外れた地下にあるのかと以前から疑問に思っていたが、幻の成田新幹線のスペースだったとは。
会場に用意された固定台に乗ると、目線がほぼグランドラインの高さに。皇居・和田倉門交差点側から、行幸通り地下道が真っすぐ伸びた先、積層した地下の上に東京駅舎が鎮座まします(註.白い立体が駅舎、八重洲口のグラントウキョウ ノウスタワーおよびサウスタワーも同じく発砲スチロールで表現)
上の画:丸ノ内線東京駅のホームと、その斜め下に横須賀・総武快速線のホーム。
参考:JR東日本「東京駅構内図
横須賀・総武快速線のホーム下からの駅舎(白い立体)の見上げ。
壁側の展示では、現在に至る形態の変遷を追う。スタート地点は1900年の三菱ヶ原、1910年に新橋からのレンガアーチ式高架が連結、4年後に東京駅として地上プラットホーム4本で開業、1942年に現在と同じ15本まで地上ホームが増え・・・と重ねてきた構造の歴史を、16点の「更新立体模型」で解説。大きなドローイング作品は、この複雑な丸の内地下空間を透視した《東京駅解体》(田中智之 熊本大学/TASS建築研究所

2013年に渋谷マークシティ「クリエーションスクエアしぶや」で開催された「渋谷駅体得展 1/100模型で渋谷駅の世界を知る」では、地下空間とホームは縦に長かったが、今回は東京駅舎を中心に平面的に拡張している感。
参考:Youtube渋谷区公式チャンネル(2014.6.2公開)BGM付き動画「変わりゆく渋谷駅 渋谷駅体得展-100分の1模型で渋谷の世界を知る 」


ドアを出て、重要文化財の赤煉瓦に囲まれた八角形の廻り階段を降り、2F展示室へ。ここから先は撮影不可。
東日本旅客鉄道(株)所蔵の精巧な各種石膏模型、鉄道博物館所蔵の創建時の建材、過去に発売された絵葉書、笑える雑誌付録のすごろく、原敬首相暗殺事件を伝える新聞記事や、東京駅にまつわる作家のエッセイや小説テキストの抜粋、空襲でドームを失った東京駅を描いた絵画作品が続々と続き、かなりの見応え。明治、戦前戦後、新幹線開通、2012年に終わった復原工事の様子や、最新の免震技術を伝える各種映像資料は4分程度にまとめられ、駆け足ながらわかりやすい。

本展を見終えて、丸の内北口改札前に出てきた後は、仰ぎ見るドームも、駅舎も、これまでとは違った目で見えてくる。

黄色い塗装は3段階のグラデーション。干支の漆喰レリーフの大きさは展示のレプリカで知れた。翼を左右に広げた鷲のレリーフも、下からは小さく見えるが2mもある。
外で庇を支えるブラケット。創建当時のものはアールヌーボーの影響を受けていた。
赤煉瓦、スレート屋根、擬石、柱頭飾りの修復、新たに施された免震構造など、2007年から5年におよんだ復原工事の解説映像も場内で上映中。
創建時、復興、そして復原工事の際に、名もなき職人たちが代々にわたってつくりあげてきた駅舎なのだと、改めて。

約100年におよぶ展示の終盤に、漫画家と現代作家によるノンフィクション作品も出ている。前者には山奥から都会に戻ってきた主人公の背景として、東京駅の朝のラッシュアワーのシーンが象徴的に登場。後者・ところどころが崩れ落ちた東京駅の姿を皇居側から正対して描いた版画作品ーー1973年生まれの元田久治によるリトグラフ「Indication -Tokyo Station-」(2007)が特に印象に残る。

東京ステーションギャラリー「東京駅100年の記憶」は3月1日まで。開廊は10-18時、有料。

東京ステーションギャラリー /TOKYO STATION GALLERY
www.ejrcf.or.jp/gallery/





+飲食のメモ。
南口にある「東京ステーションホテル」2Fのカフェ「TRAYA TOKYO」へ。室町末期に京都で創業した御菓子司「とらや」のカフェが、10時から営業している。
重要文化財である壁の赤煉瓦と、当時の貴重なコンクリートを露出させた内装。内藤廣建築設計事務所が手掛けた店舗設計として名高い。とらや御殿場店や東京ミッドタウン店など、内藤氏はとらやの物件多数。
壁にかけられた絵は、フランス人画家フィリップ・ワイズベッカー氏の描きおろし。レジ脇で販売していた、小型羊羹の包装も同氏のもの。シンプルな絵画とはまた異なるタッチによる、丸の内駅舎をモチーフにした"TORAYA TOKYO限定パッケージ"。

こちらのカフェでは、食事+とらやの菓子+ドリンクが付いて、メニューもそれぞれ複数から選べるセットメニューが消費税込1998円からあり、11:30からラストオーダーまでオーダーできる。但し、幾つかの品は平日でも品切れになることも。
吹き寄せご飯「冬野菜と柚子あん」の画。レンコン、里芋、ホワイトブロッコリの下に、もちきびご飯が盛られている。上から柚あんをかけていただく。香のものは山芋、腕ものは「白菜のすり流し」。この腕をひとくち含んだ瞬間、意識が京都にトリップした。
"クレープ仕様"の桜餅、とらやさんのは別格。香り豊かな煎茶とセットで、たいへん美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

東京ステーションホテル2F「TRAYA TOKYO」
www.tokyostationhotel.jp/restaurants/toraya/