「単位展」@21_21 DESIGN SIGHT

21_21 DESIGN SIGHT で企画展「単位展 ー あれくらい それくらい どれくらい?」が始まった。タイトルの英語表記は「Measuring: This much, That much, How much?"」。前日に開催されたプレスビューに参加する。
「単位」と一言で括られるものが、この世にこんなにたくさんあったのかと、本展を見ると素直に驚かされる。それらが具体的にどれくらいの体積、容積、スピード、時間を表しているのかも実感できる。人々の生活と切り離せない単位のあれやこれやに触れた後には、ギガやバイトでは計れない奥深い知識が得られるだろう。

ポスター・チラシなどの展覧会グラフィック:中村至男、会場構成監修:鈴野浩一(トラフ建築設計事務所)、ほか主要メンバー10名から成る展覧会チームの紹介は後述。

試みに辞書をひくと、単位とは「数量をはかる時、基準とする数値」とある(引用:『新国語辞典』角川書店、1984年 第41版:以下、この辞書を参考文献とする)←この「年」や「版」も単位のひとつ。
会場の導入部、地下1Fロビーに掲げられた、Noritake氏のイラストが添えられた「単位のはたらき」。周辺にはインタラクティブな作品も出ているが、先ずは「ギャラリー1」から見ていく。
長さ、広さ、体積、容積、重さ、速さ、時間、金銭など、私たちの身の回りにあり、日々の生活とも欠かせ内単位の数々について紐解き、学び、理解を深める、ギャラリー1の展示。
展示台は左から、重力や力の単位:N/ニュートン、熱量の単位:J/ジュール、放射線被ばくが人体への影響度を示すSv/シーベルト、一番右端の台はmol/モル。ハテ?
"香り"に単位があると、初めて知った。
手前:容積の比較:1Lの容量に合わせて組み立てた、特殊な化学ガラスの集合体が並ぶ桐山製作所
その奥と下の画:質量の比較:1kg、1lbってどれくらい?
日本人に馴染みの薄い「pound/ポンド」、単位表記が「lb」というのがまたややこしい。企画展メンバーの中心である企画進行の前村氏21_21 DESIGN SIGHTに拠れば「大麦1lbは大人1人分のパンを焼ける分量に相当する」とのこと(上の画、左下がその分量)
 

ポンドではなく日本古来の尺貫法ならわかるのかと問われれば、否、全く解っていない。会場ではこれらの「単位の体験」ができる。下の画は「1貫」の重みを実感できるコーナー。
同じサイズの袋が並んでいるので重さもどれも同じに見えるが、中身がまるきり異なる。このほか、500匁(もんめ)、1lb、8oz/オンス、1kg、500g/グラムの袋が用意されてる。
ストップウォッチとデジタル数字版が連動した「5秒を計ってみよう」。その奥のコーナーは「自分に合う高さに座ってみよう」。
お金の比較。
現在の五円硬貨の重さは3.75gで1匁、五円玉×1,000枚=1貫/3.75kgに相当する(画面上部)。つまり江戸時代の流通貨幣の流れを継いでいることが解る。千円札も上の画のように2枚並べると約1尺の長さに。
時間の比較。
右から、振り子時計、和時計、香盤時計、泡時計「awaglass」はフライヤー掲載された寺山紀彦作品studio note、砂時計、平面型日時計(一部の展示品はセイコーミュージアム所蔵)

このコーナーの右隣でプレビューされている、展覧会企画チームによる「速さの比較:マッハ1ってどれくらい?」が面白い。山間部のくねった道路ではどれくらいの距離を進むかの早回しや、東京タワーの先まで一瞬で到達する映像
(下の画:プレス用画像、image:菅 俊一)など、音速の世界が現実世界に落とし込まれている。
本展のきっかけとなったのは、2011年開催の「東北の底力」、およびその翌年の「テマヒマ展 <東北の衣と住>」での準備段階にあるという。膨大なリサーチをしていた際、取材先で出逢った70-80代の協力者の口から、尺貫法の単位がぽんぽんと出てきたそうだ。広く東アジアで使われている尺貫法は、国内の法律上は1958年(昭和33)に廃止されているが、彼等の中では生きた単位として日常で使われている(建築現場でもザラに使われている)。だがしかし、聞く側=若い世代には話が全く見えてこない。その古い単位の1つでも、身体感覚で「どれくらい」なのかを理解できた瞬間、相手と同じ世界を共有して一気にイメージが拡がったのだという。その時の感動を少しでも来場者と共有できたらーというのが、展覧会チームをとりまとめた21_21の前村達也氏の想いであるようだ(以上、内覧会時の談を要約)。

ギャラリー2も見どころ満載。展示作品一覧の行数を数えただけで20もある。
展示台は大きく3列に配置され、身近にあるさまざまなグリッドが使われている。
ギャラリー2に入って右側の展示:手前から奥に向かって、四斗樽、二斗樽、一升樽、一升瓶、四号瓶、二合徳利、一合枡、二勺五分おちょこが整然と並び、リットル換算も併記された展示台(下の画は奥から入口側の眺め。この画像は永久保存したい)
オレンジ色の展示台は一升瓶のケースを並べたもの。
といって、通じぬ世代が今後増えるのではなかろうか。コンビニや量販店全盛の昨今、このケースを抱えて勝手口まで届けてくれる酒屋の店員さんーーなんてのは、将来は「サザエさん」の世界にしか存在しないのかもしれぬ。

120角の集成材を横8×縦3個で構成した展示台。この木材にも規格がある。
計24本の角材同士はくっつけず、間にスペーサーをかませて、台そのものも含めて浮いて見えるようにした。会場構成を担当したトラフの鈴野氏は、早い段階から企画に参加している。プレスビューでは「中村さんが描いた、ポスターになっているメインビジュアルの浮遊感を壊さないよう心掛けた」と説明。

なお、鈴野氏が非常勤で教えている多摩美術大学環境デザイン学科では、准教授の米谷ひろし氏(TONERICO:INC.)と共に、本展の会場構成を考える、という実技課題を出した。プロジェクトの推移は11月開設のブログで公開中。

多摩美の学生諸君も収集に協力したという展示「長さの比較:1から100のものさし」、展示構成は寺山紀彦氏studio note
内覧会時には「募集中」の札が下がった"空きスペース"も散見。21_21公式サイトでは参加型Web企画「1-100のものさがし」も別途開催中。
造本見本帳/太田泰友+加藤亮介「嵩見本」
国際規格とニッポンの規格を相対させた展示「A判とB判」(構成:岡本健、協力:竹尾)
前者はドイツ、後者は美濃紙を元とする。

もっと広義な意味での"計り"も暮らしの中にはある。節目と呼ばれる行事だ。
沖縄の泡盛、中国の紹興酒、西洋のワインなどは、子どもの誕生や成長にあわせて贈られる祝いの品。魔よけの願いも込められる。日本における赤い還暦祝一式も同様。
岡本建「算額奉納」。
これも初めて見て、知った。江戸時代に神社仏閣に奉納された和算の問題集のような絵馬で、解けた時に願いが叶うと信じられていたそうな。並んでいるのは、岡本氏のデザイン・出題による現代版算額(協力:一関市博物館、山田写真製版所、ほか)

企画チームメンバー以外の出展者もプレスビューには多数来場。解説を直に聞けた。

寺田尚樹氏テラダモケイによる「21_21 DESIGN SIGHTってどれくらい?」は、この美術館と、主要スポーツのフィールドまたはその一部を、1/100建築模型用添景セットで比較するという楽しい展示。
170cm以上ありそうな寺田氏と、2つの1/100模型作品のサイズ比較の画。
ギャラリー2会場にはテニスコート1面がすっぽり入り、その横にボーリングレーンもぴったり同じ長さで納まる。「野球のピッチャーマウンドと相撲の土俵ではどちらが小さいかもわかりますよ」と寺田氏。「模型を立てて展示したのは初めてだったので、げんきくんの黒い影が良い感じに長く伸びたり、いろいろと発見があった」とのこと。
模型・館内には競泳プールの飛び込み台が出現し、エントランス前では砲丸投げの真っ最中。ボクシング、バスケ、フットボールと各種競技があるなかで、ひとつだけ「?」と謎の一団が。「これは何の種目ですか?」と訊くと、寺田氏は「あ、それはヒーローインタビュー中なんです」と回答。暫し、その場に踞って笑う。

現代のデジタルツールとアナログな「はかり」が複合した作品も。
「 "が" や "ば" といった平仮名に付く濁点ひとつを1.00gとして設定し、アルファベットやほかの仮名それぞれの面積比から文字の重さを産出、比較できる「ことば の おもみ」。
タッチパネルで文字を打ち込んでモニターに表示させるタイプと、天秤秤に文字を載せる2タイプあり。理科の実験で使うようなシブい秤は、真鍮製にこだわって出展作家が探したもの。
大野友資氏(Noiz Architects)と、グラフィックデザイナーの岡本健氏による恊同作品。佐藤卓事務所出身の岡本氏は本展の会場グラフィックも担当している。
岡崎智弘+Think the Earthの作品「1秒の世界」。
モニターの前に置かれた台の上に立っている間、そうと気付かぬうちに、世界のどこかしらで進行する何か。かつまた地球も回っている。
グリッドの展示台の上に鎮座するグリッドの家具。1970年に倉俣史朗がデザインした「Funiture with Drawers Vol.2 #6」。
佐野文彦+無印良品「無印良品の単位」
無印良品のユニットシェルフを組み上げて展示コーナーとした。このユニットシェルフは日本の木造建築の基となる3尺/6寸に準じた外寸法で、内寸800×350mmも同社の多くの商品の基準としているため、すっきりと空間を納めることができるとうたっている。
「みんなのはかり」コーナーには、葛西薫、作原文子、皆川明、ジャスパー・モリソンら8組が出展。それぞれにとって思い入れの深い「はかり」が並ぶ。
手前の模型:クライン・ダイサム・アーキテクツ「ヒューマンスケールな計り」
KDaのオフィスには、●●が●●(台、枚など各単位)入ります、とアクリル模型で表示。
「わたしの単位」コーナー:大西麻貴+百田有希/o+h の展示「コップの中の空間」
現代の建築物を建てるのは、建築家や資格を有した設計士。明治より前は大工と称した。彼等が使っていた道具と、その計り方の解説(協力:竹中大工道具館
ギャラリー2の最深部にある、岡田憲一(LENS)による作品「Pixelman」。付近を動き回ると、人物が3段階のピクセルに置き換えられ、壁のスクリーンに投影される。
岡田氏は地下1Fロビーにも出展中。
勢揃いした「単位展」展覧会チームの主要メンバー(左から敬称略にて、前村達也、山田遊(meathod)、鈴野浩一、中村至男、稲本喜則(AXIS)、岡本健、菅俊一、寺山紀彦、学術協力:星田直彦)。右端は会場構成協力にクレジットされている五十嵐瑠衣氏。前回の「活動のデザイン展」でも会場構成を手掛けている

企画チームのメンバーの胸元をジミに飾っていた、
←グレーの丸バッチは、岡本健氏がデザインし、ファブラボで作成したもの。メンバーに当日プレゼントされた。


なお、プレスビューの案内役は21_21の前村氏が務めたが、本展における試みのひとつとして監修者が不在となっている。異業種の複数人がチームを組み、それぞれが得意とする領域のディレクターとなって進められ、会場に結実した。
地下1Fサンクンコートを挟んで、ロビーの壁に設置されたソーラーパネルと、連動作品「ソーラーパネルパワー」が見える。間を結ぶ通路にも、菅俊一+奥田達也作品「命の単位 ゾウ・ヒト・ネズミの鼓動」がある。

記述順が逆になったが、会場導入部にあたる地下1Fロビーの展示を改めて紹介。
左奥:ヘルムート・スミッツ「1 Meter Party」は、作家の息子の身長が1mに達したことを祝う作品。
右側:ケースの中身は東京都計量検定所所蔵の「メートル原器(レプリカ)」。化学的に安定した金属の白金とイリジウムで出来ており、0℃の時の両端の長さが1mの基準となる。
パーフェクトロン「りんごってどれくらい?」
作品タイトルに倣って皆、チャレンジするも、思い描くサイズにならず、違う球体が画面に出てしまう。意外に難しいものだ。

下の画:岡本憲一+冷水久仁江(LENS)、播本和宜+渡邉啓高(studio 仕組)、劉功眞(LIUKOBO)による作品「Giraffe's Eye」。
本展設営中の様子を真上から撮影し、倍速で見せる。手元の操作盤で1平米から1万平米までズーム&アウトできる。この角度で《21_21 DESIGN SIGHT》を眺めることはナイので、とっても新鮮。
ロビーとギャラリー1の間に置かれたアート作品、マーテン・バース「Grandfather Clock」。文字盤の裏側から誰ぞ男性=おそらく作家の手で、黒マジックで短針と長針が描かれ、時を刻んでいく作品。
このほか、時間内に見られなかった作品多数。
 

会期中は関連ブログラムも多数開催される。オープニングイベントは28日、中村、鈴野氏ら企画展メンバー8名が登壇する「あれくらい それくらい どれくらい?(当日会場受付)

いつもは奥の一角に小さなミュージアムショップが出ている1Fロビーに、単位展コンセプトショップ「Measuring shop」がオープン。企画展入場は有料だが、こちらは本展会期中に限り、入館料無しで利用できる。
ショップ監修は、羽田と原宿にある「Tokyo's Tokyo」のグッズセレクトなども手掛けている、methodの山田遊氏。
(株)ナカダイによる量り売りコーナー:「ナカダイ マテリアル ライブラリー」。青物横町にある同社のショールーム「モノ:ファクトリー」の一部が引っ越してきたようだ。 
4月4日にはナカダイ関係者と山田氏が参加するワークショップあり。
岡本健デザイン/かまわぬ「単位てぬぐい」など、単位にまつわるグッズを販売。ほかにも出展者の関連商品を各種取り扱う。
会場ギャラリー2に展示してあったトラフ×石巻工房による「AA stool」は、通常は2台1セットで販売のところ、1台単体での特別販売(高さ3タイプあり)。また、かみの工作所から出ている「空気の器」も通常3枚セットが1枚から購入可。
テラダモケイの販売コーナーでは1/1「げんきくん(原器くん)」がお客様をお出迎え。
単位展 ー あれくらい それくらい どれくらい?」は5月31日まで。火曜日休館(5月5日は開館)、開館時間は11-20時(4月25日「六本木アートナイト」は24時まで時間延長あり)。詳細は21_21 DESIGN SIGHT公式サイトを参照。

21_21 DESIGN SIGHT
www.2121designsight.jp/




+飲食のメモ。
内覧会前の腹ごしらえは、西麻布のイタリアン「KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA(ノック クッチーナ・ボナ・イタリアーナ)」にて。21_21向かいの東京ミッドタウン・ガーデンテラス2Fにも、昨年12月にオープンした2号店あり。

"『スペシャルがあなたをノックアウト』スパゲッティーニ":「スモークチキンと佐賀のキャベツで『チキン・クリーミー』ニョッキ」の画。これにサラダとパン、コーヒーなどのドリンクが付いて、消費税込1,000円。この界隈としてはCPが高く、しかもおいしい。スタッフもとても親切。いうことなし。ごちそうさまでした。

KNOCK CUCINA BUONA ITALIANA
http://mother-restaurants.com

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