読書感想『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』

『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』を半日でイッキ読み。
作夏《江戸東京博物館》での「思い出のマーニー×種田陽平展」 と、先週《世田谷美術館》で「東宝スタジオ展 映画=創造の現場」を見て以来、ずっとあったモヤモヤの一部が晴れる。特に世田美の企画展は、この本を読んだ後での方が、見る目が多少なりとも違っていたのにと悔やまれる。

本書はタイトル通り、美術監督の種田陽平氏と、先輩諸氏13名との対談集である。『キネマ旬報』で2006-07年に連載されたインタビューに大幅に加筆したもので、連載終了後に行なわれたダンテ・フェレッティ氏、高畑勲氏との対談も収録している。


東宝に限らず大映、日活、松竹、東映など映画会社と時代を横断する本書。市川崑、黒澤明、鈴木清順、溝口健二といった、名前をいえば作品が思い浮かぶ監督、もしくは俳優たちを通じて日本映画の隆盛を記述した本が多々あるなかで、本書は美術の側から映画の世界が語られる。
監督のイメージと合わずに撮影前夜に全てセットが作り直しになることもある一方で、厳密な時代考証の枠を超え、映画ならではのフェイクも時として許容される。監督をノせ、役者をノせ、スタッフをもノせ、シーンごとに不可欠な重要な"出演者のひとり"でありながら、見終わった後に「良いセットだったね」と観客に云われるようではダメ。撮影が終われば壊され、フィルムもしくはデータの中にしか存在しえないもの。表裏一体のきわどさは、以下の発言にも滲み出ている。ゆえに、映画美術はかくも美しくあらねばならぬのか。

ー僕が松竹に入った頃、すでに浜田辰雄さんが「映画の最盛期は、建築家が映画のセットの真似をした」と仰っていた。いまは逆でしょ。現実の建築の後を追うような形になっている。だから、何とかしてまた建築家が映画の真似をしたくなるような映画美術が出てきたらいいなあとは思いますね。ーー『八つ墓村』『上海バンスキング』で美術を担当した森田郷平氏の発言より(同書 P.165)

封切り時に観た映画タイトルが登場するワダ・エミ氏以降の章が読んでいてやはり面白いが、篠原一男が設計したアトリエ兼自宅で収録された朝倉摂氏の章も興味深い。

『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーネットワーク、2014)
http://books.spaceshower.net/books/isbn-907435288