日本科学未来館 新展示「細胞たち研究開発中」

台場の《日本科学未来館》の5Fに、生命について幅広く学び、考えるための、新しい常設展示が3月20日にオープンした。展示担当者のアテンド付きで見学する。
以前はゲノムに関する展示があったエリアに登場した「細胞たち研究開発中」はズバリ、「細胞」についてイチから学ぶもの。正確に記述するとなると専門家でない限りは「?」となるが、名称自体は子供でも聞いたことがあるであろう「iPS細胞」をはじめとした最新の再生医療の主役達による、未だ未だ知られざる可能性の一端を示してくれる。

展示への"玄関口"は、細胞分裂の途上のような多面形のシミュレーションブース。計5つ。植物をイメージしたもので、1つには植物も細胞から成る生物であるということ、2つには、17世紀の科学者ロバート・フックが、顕微鏡でコルクの欠片を覗いた際にcell=細胞を発見した、という史実に基づく。
この5つのブースで、8-12分ほどの尺にまとめられたそれぞれのストーリーを先ずはシミュレーション。例えば、脊髄を損傷してしまった場合、糖尿病を煩った時に、再生医療という治療の可能性を提示される。治療の概要、メリット・デメリットについて、画面上の医者から説明された後、最後に私たちはYesかNOの「選択」を迫られる。
ブースの中には、シンプルな選択スイッチとベンチが2つ置かれ、架空ながら限りなく現実に近いストーリーがテンポ良く展開されるスクリーンと向き合う(当日配布されたリリースより/2015.2.25配信リリースはこちら)
近い将来、誰の身にも起こりうることであり、自分自身の問題として引き寄せて考えて欲しい、というこの展示では、整理券の配布はない。順番を待ち、空いたブースに2人ないし1人で入って、自分の意志では選べないストーリーと対峙する、という見学システムをとる。実際にあるブースに入って体験させてもらったが、約10分間のシミュレーション中、頭の中をグルグルと思考が駆け巡った。
多面形の5つのシミュレーションブースを出ると、詳しい解説展示の数々が待っている。細胞を学ぶ初歩として、理科の時間に習ったような受精の瞬間から細胞分裂が進む過程を早送りした映像や、胎児が成長していく段階写真、実際の大きさを触って確かめられる模型の展示など。
今後の再生医療の現場で使われる可能性が高く、だが実は"生み出されて間もない"という3つの幹細胞ーー体性幹細胞、ES細胞、iPS細胞が、どんなかたちをしているか、わかりやすく拡大された状態で見ることができる。
幹細胞がどのようにして精製されるのかを含め、展示テキストはとても重要な事ながら、展示のサガとしてアッサリ簡潔にまとめられている。決して斜めには読めない。
大人も子供も、誰にとってもわかりやすく、身近に感じてもらう今回の「細胞たち研究開発中」。言葉の選び方、グラフィックや模型を含めたトータル・デザインが優れているように思う。展示協力者一覧は出口付近に掲出されており、なんと、ストーリー演出協力にしりあがり寿氏がクレジットされていた。
総合監修:浅島誠氏(日本学術振興会、東京大学、産業技術研究所)。名誉監修:山中伸弥氏(京都大学iPS細胞研究所)。機関監修:京都大学iPS細胞研究所[CiRA]。なお、山中氏は展示のひとつ「3つの幹細胞、あなたならどれを選ぶ?」のインタビュー解説にも登場する。
基本設計・空間実施設計:リトルスタジオインク(株)
空間設計:(有)タッグ・マッチ、映像システム:(株)イエローツーカンパニー
展示コンテンツ設計・制作:(株)電通
コンテンツディレクション:ボストーク(株)伊藤ガビン、グラフィック:いすたえこ/竹田大純/渡辺明日香、イラストレーション:岡村優太、サウンド:ヨシホリカワ(註.昨秋開催された「AnyTokyo 2014」にて場内サウンドを担当)
シミュレーションブースの向かいに新設された「オピニオン・バンク」では、アンケート方式で来館者が自分の意見を発信できる。
現在進行形の細胞研究について知る、実験する、意見を発信する、という3本柱から成る、今回の常設展「細胞たち研究開発中」。フロアに置かれた「?」マークのベンチシートSixinch社製)に腰掛けて、あれこれと考察や議論も出来るだろう。「知識を得るだけでなく、身をもって想像し、考えることで、日常生活にその体験を持ち帰って欲しい」とのこと。
4月4日には、同常設展の総合監修を務めた浅島誠氏を迎えてサイエンティスト・トークも開催される(定員100名、要事前申込・3/25締切)。参加費は無料だが、講演内容は小学5年生を対象としているとのこと。Miraikan Channelでの生中継も予定。

日本科学未来館
www.miraikan.jst.go.jp/




+飲食のメモ。
7階にオープンしたばかりのセルフ式レストラン「Miraikan Kitchen」の営業時間には間に合わず。以下は館内飲食履歴。
1.「飲むユーグレナ」@ミュージアムショップで販売
2.「惑星カレー」@5F Miraikan Cafe