ギャラ間「藤本壮介展 未来の未来」関連講演会を聴講

1899年創業の飯野海運(株)の本社が入った現在の《飯野ビルディング》は2011年の竣工。地下5階+地上27階で建て替えられる前は、地下4階+地上9階建ての社屋だった。竣工当時から存続のホールは、落語や映画試写会、アマチュア音楽家たちにも広く開放されてきた。座席数は694から500に減ったものの、企業文化の歴史を今に受け継ぎ、館内および敷地内には新たなアート作品が点在する。

旧ホール1Fロビーにあった大きな大理石レリーフ村井正誠作品を、出入口前の壁面に移設したイイノホールで、TOTOギャラリー・間で開催中の「藤本壮介展 未来の未来 Sou Fujimoto: FUTURES OF THE FUTURE」関連講演会が行なわれた。

「国内での単独講演は久しぶり」という藤本壮介氏の講演会。ホールは満員御礼。
「早い段階のコンセプトづくりから参加した」という『Sou Fujimoto Architecture Works 1995-2015 藤本壮介建築作品集(TOTO出版)。「サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013Serpentine Gallery Pavilion」が表紙を飾り、木々の葉が配されているのには意味がある。乃木坂の企画展会場にある、「森はいつも、僕にとっての建築の原型だ。しかしこれを森とみてはいけない。」 という謎めいたキャプション(場内のテキストは全て藤本氏が考えて用意したもの)がついた"模型"(下の画)が映った会場写真を例に、壇上の藤本氏は「森の中に居るような"空間や場所をつくる」という、20年来掲げてきたテーマを象徴した表紙であり"模型"であると説明した。強いて順路を設けず、来場者が「模型の森」を自由に歩き回れるようになっている会場も意図的な構成。
続けて要約すると、森という空間は、木々の緑、木漏れ日、鳥の声など、いろいろなサイズのさまざまなレベルのものごとが積層している。一歩歩くごとに風景も変化する。同じような体験を、会場で味わって欲しいとのこと。
「完成された未来像ではなく、建築の出発点のようなもの」を含め、抽象、具象の大きな幅をもって表現している今回の会場には、上の画のような「おちゃめなヤツら」あり、さまざまな段階のスタディ模型あり、異なるレイヤーのカタチやテキストが、これでもかと散りばめられている。出展された107のプロジェクトは本展のために厳選したもので、実はこの倍以上の数のPJが存在するらしい。
藤本氏がオープン当日の朝まで作り込んだという「模型の森」を逍遥するうちに、例えば、同じ模型の前を通りがかっても、得られる体感はその都度で異なり、「模型同士を繋ぐ思考が次々と生まれて来る」筈だという。それは建築でも同じことで、藤本氏は「行く度に異なる経験が得られるのが建築が持つ豊かさではないか」と語った。
講演前半では、「我ながらとてつもなく凄いものをつくったと思う」とにこやかに自賛した会場と、「僕の解説を聴いたら買わずにはおれなくなる」あるいは「手のひらの中に無限の可能性がひろがる」と同様に自賛した書籍について自ら解説。両者の間には、藤本氏による相対・複層リンクが設定されている。
後半は、コンセプト模型《Primitive Future House》をはじめ、都内の住宅密集地に建つガラス張りの《House NA》、中東の巨大PJ《Souk Mirage/Particles of Light》、TOTOの便器を使った市原の公衆トイレ《Toilet in Nature》、大分の《House N》、《武蔵野美術大学図書館》、現在確認申請中というモンペリエの《L'Arbre Blanc》、《Forest of Music》などの作品レクチャー。
相当な出来映えと講演でも自負した《サーペンタイン・ギャラリー・パビリオン2013》の段では、現地担当者とのバトルや、会場に展示された模型(上の画)を正月休み返上で制作した時の様子も語られた。
トータルで時間が押し、講演終盤は駆け足に。
企画展のフライヤー(下の画)に、雪原に宇宙船が舞い降りたかのようなビジュアルで使われている《Forest of Music》は、ブタペストの中心部にある公園に音楽博物館とホールなどの複合施設を建てる、現在進行中のプロジェクト。サイトは木々に囲まれ、建物が完成してもおそらく地上からは外観全体を視認できないと判断した藤本氏は、森の中を歩いて会場に向かううちに、いつの間にか建物の中に入り込んでいる、そんな建築を提案し、コンペに勝利した(参考:ハンガリー経済ニュース 小話交差点2015.1.5掲載)。天井面は鏡面仕上げとし、光とグリーンを反射させて空間内部に取り込む予定とのこと。
定刻通りスタートした講演会は、会場からの質疑応答を受け付ける時間がなくなるほど、藤本氏は2時間弱を一気に喋りきり、その前後にはサイン会にも応じた。

5月19日Youtube公開 公式動画(再生時間 1:50:24)

TOTOギャラリー・間「藤本壮介展 未来の未来 Sou Fujimoto: FUTURES OF THE FUTURE」の客足は好調で、土日は300-400人が来場、オープンから10日あまりで早や3,000人を超えたとのこと(主催者冒頭挨拶より)。会期は6月13日まで。月曜祝日は休館(5月4日は開館)。開廊は11-18時、入場無料。

TOTOギャラリー・間
www.toto.co.jp/gallerma/




+飲食のメモ。
講演会会場の北側にひろがる日比谷公園を通り、聴講前の腹ごしらえに「松本楼」に立ち寄ったお陰で、藤本氏がいう"森"の例えをリアルに理解できた。
日本初の西洋式公園として明治36年(1903)にオープンした日比谷公園。その前から銀座に出していた料理店が前身のようだが、「日比谷松本楼」としては公園と同時に創業。現在の建物は昭和48年(1973)に建てられたもの。戦争や安保闘争のダメージを受けながらも、明治以来脈々と続く洋食の老舗。
そんな店よりも"歳上"で「首賭けイチョウ」なるいわれをもつ大銀杏を前に、1Fガーデンテラスで「ビーフカレー」をいただく。年に1度の9月25日だけ「10円」になる看板メニュー(参考:日本ユニセフ「10円カレーチャリティ」)
タマネギとビーフだけのシンプルなカレー。やや甘口の好みの味。マリメッコのクロスが敷かれたテラス席はロケーションも素晴らしく、この時期は虫も飛んでこない(チャレンジングな雀がじわじわと距離を詰めてくるが)。これで880円+税とわ、大・満足!
営業は10-21時(L.Oは20:30)。平日の15-17時はケーキセット¥850もあり。
とっても美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

森のレストラン「日比谷松本楼」
www.matsumotoro.co.jp/