TOTOギャラリー・間「藤本壮介展 未来の未来」始まる

乃木坂のTOTOギャラリー・間で17日から始まった「藤本壮介展 未来の未来 Sou Fujimoto: FUTURES OF THE FUTURE」を見学。
「大学を卒業してすぐにひとりで建築家としての思索を始めてからもう20年になる」という藤本壮介氏(展覧会に合わせて刊行された書籍『Sou Fujimoto Architecture Works 1995-2015  藤本壮介建築作品集』序文より)。会場には、本展のために厳選された107のプロジェクトに関する"模型"が並ぶ。定められた順路はなく、会場を回遊しながら俯瞰することで、20年の軌跡、藤本氏が考える建築の未来、そのまた未来、さらに先にあるかもしれない可能性を垣間見る。

出展模型のサイズにあわせた展示台。鞄などを誤ってぶつけないよう、貴重品を除く手荷物を受付で預かってくれる。
本展では、3Fフロアに68、続く中庭に43、4Fの展示室に20、合わせて131の"模型"が並ぶ。
「Spiral House」(2007)、「House N」(2008)、熊本アートポリスの"モクバン"こと「Final Wooden House」(2008)、東京ガスの実験住宅「House before House」(2008)、「東京アパートメント/Tokyo Apartment」(2010)、「House NA」(2011)、「Serpentine Gallery Pavilion 2013」など、作品の見当がつく模型もあるが、作品名が明記されていない台が殆どで、縮尺スケールも不明。代わりに、前出の書籍序文の表現を借りれば「謎めいた禅問答のよう」なテキストが貼り付いていたりする。 
書籍では20年間、107のプロジェクトが時系列に登場する構成。会場はその限りではないが、狙いは同じとみられる。

「よく知られたプロジェクトばかりでなく、今まで発表してこなかったコンセプチュアルなモデルや、コンペに応募したが敗れた案など、初めて発表するものも多く含まれる。そのようなほかの多くのプロジェクトと並ぶことで、個々のプロジェクトをただ説明するだけでは見えてこないような、コンセプトの進化や深化、転機や融合などが見えてくるのではないかと期待している」ー書籍『Sou Fujimoto Architecture Works 1995-2015  藤本壮介建築作品集』序文より抜粋。

「Serpentine Gallery Pavilion 2013」は「さまざまな意味において藤本建築のエッセンスが凝縮されたもの」であるらしい(書籍の記述・P244より引用)
中東では初となったPJ「Souk Mirage/Particles of Light」(2013)の模型。長さ1km、高さ100mというショッピングモール。
竣工、あるいは進行中のPJもあれば、文字通り"禅問答"のごとき難解なスタディ模型も来場者を待ち構えている。例えば、下の画のように。
赤紫色のペーパーをクシャクシャッと丸めた、吹けば飛ぶよな立体に、白い人型が置かれている。「これは建築なのか? Is this Architecture?」と藤本氏と同じ疑問を呟きつつも、いや、もしかするとこんな建築も将来はありうるかも、と思ってしまう。反則ですヨなどと言いたくもなるが、不思議とダマされた気にはならない。
上の画、手前の展示台にはこう書かれている。「森はいつも、僕にとっての建築の原型だ。しかしこれを森とみてはいけない。」 
「この光の煌めきがそのまま建築になったとしたら、それは時間を越えるに違いない」
「建築は地球の断片を積み上げているのかもしれない」
「広場と路と家具と建築が混ぜ合わさった」とだけ書かれた模型は、058「Layered Plaza」(2011)のスタディ、その後の078「Taiwan Cafe」(2013)に続くと推測される。前出の書籍では、前者は058を含む4つ、後者では6つの別のPJの掲載ページに"リンク"が設定されている。書籍序文での説明いわく、「時系列に追っていくだけでなく、このリンクを辿ることで、また違った全体像が見えてくるに違いない。」とのこと。成る程、そう云われると、つい先日、コンペで勝利したと報じられた「パリ・サクレーの学校施設」との類似点がなくもない。
手前:「建築は流れである。あるいは流れの●急で●る。(註.伏せ字は展示物が掛かって判読できず)
奥の模型:「Beton Hala Warterfront Center」(2011)。
書籍では、ベオグラードのPJが掲載されたページ/P191の右下に、4つのPJのインデックス番号が明記されていて、アナログに相互のページを繰りながら"リンク"で別の作品に飛ぶ、そこからさらに飛ぶという、ぐるぐるとした読書感覚を得る。
藤本氏が用意した言葉は展示台のみならず、会場のあちらこちらに書籍『Sou Fujimoto Architecture Works 1995-2015  藤本壮介建築作品集』の目次を元とした12のテキストが用意されている。例えば、「House O」(2007)の模型の裏側に「4:雑貨/家具/部屋/建築/路/街/ランドスケープ、という異なるスケールのトランジション」とタイトルされたテキストのパネルがある(上の画、鏡面の壁に映り込んでいる)
中庭のテキスト展示例。
「1」は思わぬ場所にあった。会場を辞す際、手荷物を受け取った時に気付く。
台北に計画中の高層マンション「Taipei Apartment」(2013)。
「エクサンプロヴァンスに計画していた小さな美術館」の模型。書籍には見当たらず。054「LA Small House」(2011)との関連性が推測される。

どのPJにも共通してみられるのは、太古の人類が生活を営んでいた洞窟のような空間、人が身を隠して安心と思える居場所を内包している点だろう。2008年に刊行された初の単著『原初的な未来の建築』(INAX出版/現在LIXIL出版)の序文において、藤本氏は「新しい建築、未来の建築を考えるということは、奇妙なことに、原初的な建築を考えるということと表裏ではないだろうか」と述べている。107のPJはこの延長線上にある。参考:10+1web 田中純氏による書評
「Primitive Future House」(2001)

手前の半透明な模型の展示台に書かれている「100年後にはこんな家に住んでいるかもしれない」というテキストに、うむと頷いてしまった。なにしろ、その奥に見える小さなキューブが連結した模型などは、パリ・チュイルリー公園に期間限定のインスタレーション「Many Small Cubes - Small Nomad House」として昨年実現しているのだから。「Many Small Cubes 〜」でのコンセプトは、4Fにパネルが展示されている「L'Arbre Blanc」(2014-)にも流れ込んでいる。
展示のなかには、長年放置して「柱や床がふにゃふにゃになった」習作模型も(上の画、左端)
北海道伊達市「情緒障害児短期治療施設」(2006)の部分模型。書籍巻末に収録された「藤本壮介年表」によれば、"一連の北海道の医療施設シリーズの集大成"と位置づけられている。

藤本氏は1971年生まれ、北海道出身。1994年に東京大学を卒業後、年明けにいったん地元に戻り、建築家としての活動をスタートさせたが、96年に再び東京に戻る。最初のスタッフを雇い入れたのは、青木淳氏らと共にファイナリストに選ばれた「青森県立美術館」のコンペで2等になった年、2000年の暮れのこと。
中庭の最深部に置かれた模型は、巻末に107番目に収録された「Skyscraper/Forest 」(2015-)もしくは088「Omotesando Branches」の"前身"なのか、それとも逆の進化形なのか。
台湾で計画中の美術館の模型。曲線を描いた壁の長さは100m以上あるという。
中庭展示の俯瞰。雨が降ってもカバーなどはかけずにこのママらしい。雨風で模型が破損した場合には、藤本壮介建築設計事務所からスタッフが駆けつけ、すぐさま修復にあたる。
4Fに展示。奥の壁には「Architecture is everywhere」と銘うたれた藤本氏からのメッセージが。
壁の作品パネルは実現または現在進行中の12のPJについて。中央の20個の展示はそれらの元となったかも?しれないものたち。
4Fの"模型"はテキスト無し。展示パネルの作品と照らし合わせながら、見学者めいめいの頭の中でイメージを膨らませよということか。
洗濯バサミやら食器洗い用スポンジやら、藤本事務所ではこれらの「建築の種」あるいは「未来の種」となりそうなモノを手に、国籍も多彩なスタッフがああだこうだと議論しているのだろうか。想像するだに楽しい。
そんなアホなと苦笑しつつ、ン年後には実現していそうだから、建築とは面白くもオソロシイ。
初日17日の11時から見学したが、来場者が続々と増えていった。建築を学んでいない人でも、ああでもないこうでもないと楽しめるだろう。面妖な模型を撮るのも楽しい(撮影およびネット掲載可)

TOTOギャラリー・間「藤本壮介展 未来の未来 Sou Fujimoto: FUTURES OF THE FUTURE」は6月13日まで。月曜祝日は休館(5月4日は開館)。開廊は11-18時、入場無料。

TOTOギャラリー・間
www.toto.co.jp/gallerma/




+飲食のメモ。
この日は夏日に近い陽気。今年初のかき氷を食すべく、芋洗い坂を下り、かき氷専門店「yelo(イエロ)」へ向かう。
前回のオーダーは「アボガドマスカルポーネ」、今回は「アサイーヨーグルト」(税込み900円)

上にかかっているのはグラノーラ。氷の中にも入っていて、氷は全体的にクリーミー。

・・・コレも白い人型を配置してみたら、"未来の建築"に見えるんだろか。

などと、途中で飽きずに食べ終わる。冷房がきいていない春先の店内は、氷が溶けるのがちと早いか。
美味しゅうございました。ごちそうさまでした。

KAKIGORI CAFE&BAR「yelo」
http://yelo.jp/