あだち農まちプロジェクト「ワカミヤハイツ」内覧会

過日に開催された「ワカミヤハイツ」の内覧会へ。場所は足立区内、都営日暮里・舎人ライナー谷在家駅から東へ歩くこと約3分、私道である路地を入った突き当たり。
約410平米の敷地に1976年(昭和51)に建てられた、計8戸の木造賃貸アパートを、6戸の賃貸住居とシェアオフィス、住民共有キッチンとラウンジ、さらには庭先に菜園まで付いた、コミュニティアパートメントとしてリノベーション。設計は落合正行氏が代表を務めるPEA...(ピー)が手掛けた。

下の画はリノベ前の外観。2棟のまわりに敷設されていたコンクリートを撤去し、露出させた土を検査したうえで、菜園用の土を入れ、菜園のほか"実のなる小さな森"を敷地内に生成した。
この"食べられる庭"を介して、「ワカミヤハイツ」の住民同士、さらには地域住民とのコミュニケーションが生まれることを見込んでいる。"住居+生産する場"という設計コンセプトの詳細、昨年12月に着工してからの経緯は「あだち農まちプロジェクト」公式サイト、または facebook が詳しい。
菜園ではナスやトマトの苗が生育中。このほかクワの実やプルーンなどの果実樹や、ニラやハーブなども敷地のあちらこちらに植えられている(外構計画:LIデザインアソシエイツ
菜園の害虫駆除などは管理会社が定期的に行なうが、日々の面倒をみるのは「ワカミヤハイツ」に暮らす住民たち。共有スペースのキッチンとラウンジも当番で管理し、いつでも気持ちよく使えるように保つ。
ワカミヤハイツ」は東と西の2棟に分かれ、1階と2階に2室ずつ、2棟合わせて8戸。2棟の間のアプローチに面した1階の部屋は、西側がシェアオフィス、東側は住民共有のキッチン・ラウンジとなっている。1階の4戸は菜園に面した側の壁を取り払い、2室のうち1室の床を土間に変え、内外の出入りをスムーズにしている。
西側の棟1階のキッチン・ラウンジ。新たにL字の庇と、菜園に面して開口兼ベンチを造作した。晴天に恵まれた内覧会時は開放されていたが、黒い壁の後ろに格納されたガラス戸で内外を仕切ることも可能。
ラウンジのデッキ部分は、桧の無垢材によるフローリングにワックスがけ。壁と天井は、アパートの外壁と同じ白に近いベージュで色塗装。キッチン側のカウンターは椹(サワラ)で、淵部はいわゆる耳付き。
1階 共有キッチン。本格的な3連ガスレンジとオープンがついている。
1階 共有部のトイレ。
キッチン・ラウンジの土間はコンクリート平板貼り。
部屋番号1-Cことこちらのラウンジでは今後、コモンミールなど地域参加型イベントも開催予定。
東と西に分かれた棟の間に掲げられた建物看板は既存のもの。新たなサイン(後述)も製作しているが、築39年のアパートの歴史としてそのまま残した。
2棟の間の地面もコンクリートが剥がされ、緑の芝と、数種類の植物が植えられている。アプローチは私道側のみ御影石で、枕木が蛇行しながら奥へと続く。
アプローチの左右にも、地域在来種の樹木やローズマリーなどが植えられている。これらの樹木が虫や蝶を呼び寄せて、受粉を助けてもらい、昆虫の捕食者たる鳥たちも招き、生態系をも育成する。
2棟の北側外観。壁と柱は塗装し直し、鉄骨階段は踏板メッシュ仕様のものに補修した。
1-Bは定員3席のシェアハウスである。
北側玄関から、オフィス空間の眺め。
靴箱の飾り棚の上に、改装前の内観写真があった。かつてはこの裏がキッチン(流し台)だったが、リノベ後は部屋の中央、土間の打合せスペースに付随させている。
ミーティングテーブルは造作で、ラワンランバーにスチールの脚をつけたもの。丸椅子はスタッキングできる。
現・菜園に面した側は、かつては四畳半と六畳の二間続きの和室だったところ。古い襖は取払い、床の間の壁もとり払って、桧のフローリングとしては玄関側から連続した1室空間に。
ワカミヤハイツ」は単に表装を新しく整えただけではない。竣工後に改正されている建築基準法:いわゆる新耐震にも適合させている。建物の資産価値を高め、銀行から資金協力を受けやすくする効果もある。
構造補強として、既存の壁の上から構造用合板を貼り、表面を薄い白色の塗料でローラー塗りした後、布で拭き取り、合板の木目が消えないようにした。さらには合板にうちつけた釘の頭も、壁と同じ色で塗って目立たなくしている。再補強の要らない欄間や一部の壁、柱や梁は、殆ど手を加えずに、元の雰囲気を残している。
来客用エントランスはこちら。菜園側の敷居を跨いで、土間空間に入る。
内覧会開催時で、シェアオフィス2席を募集中。

続いて隣の1-Aを見学。
靴箱や棚などの家具は、シナあるいはラーチ合板で造作したもの。部屋によって材をどちらかで統一している。ドアの把手形状や、建具の仕上げにもバリエーションがみられた。
洗面台は各室共通。動線を考えて角のない半円形の台を造作し、その上に四角い洗面器を据え置き。
8戸に共通する仕様として、既存の天井面を取り払い、以前よりも200mm高くなっている。
かつては玄関脇にあったキッチンは、F.L.から100mm下げた土間の中央に据えた(以前は畳敷きの和室だったところ)。 外の菜園="食べられる庭"で収穫した泥付き野菜をそのまま持ち込み、調理もできるというイメージ。
冷蔵庫と洗濯機は、かつての押し入れの中、両開きの引き戸の奥(かつての押し入れ)に格納する。
この「ワカミヤハイツ」では、8室それぞれでレイアウトや仕上げを変えており、同じ部屋はない。そこで苦心しているのが、水まわりの取り扱いだ。中でも洗濯機の置き場がひとつのポイントに。ひと昔前はコインランドリーの利用率も高く、アパートではベランダの隅や共有廊下に置くこともあったが、現代のライフスタイルとしてはそぐわない。洗濯機パンを部屋のどこに設置するかによって、部屋全体のレイアウトに影響した。

東側の棟の住居1-Dでも、トイレを面白い位置に据えている。
1-A同様、押し入れだった空間を活用し、襖で仕切るトイレ空間に。
土間はほかの1階の部屋よりも深い、F.L.-400。部屋の上がり口やデッキに腰掛けられるようにしている。。
キッチンはリノベ前と同じ、玄関脇の廊下側。外廊下に面した窓と、玄関ドアの上に嵌ったガラスは、今では手に入らない、懐かしい昭和の柄だ。
 こちらの部屋の靴箱と棚材は、針葉樹らしい木目のラーチ合板。靴箱はブーツをそのまま収納できる。
各室の番号は、小さな黒板にチョークで描いたもの。

外階段をあがり、同じ棟の2階にある賃貸住居2戸を見にいく。
1-Dの上に位置する2-Dは、前述した通り、下の階とは微妙に部屋の間取りが違う。
玄関の上がり框の下は化粧セメント板を貼った(各室共通)
玄関の左側が、バスルーム、洗面、洗濯機置き場の水まわり。
シェアオフィスはシャワーブースだったが、賃貸の6戸は追い炊き機能付きユニットバス。
下階1-Dとは異なるキッチンの配置。90度ふって、窓ではなく壁側を背にしている。
キッチンの前から、水まわり空間の眺め。右奥の扉の奥はトイレ。その右側は寝室に続くドア。共に外開きである。
既存の柱と、トイレルームのドアの把手。
リビングの収納ボックスの把手。
昭和の頃に建ったアパートは、物入れが大きく、上部についた天袋も大きい。
キッチンからひと続きのリビング。
上の画・左側が寝室。仕切りはフラッシュドア。できるだけ既存の建具を再利用しているが、一部では取り替えている。
再利用した古い建具と、新しく造り直したものとが混在し、いろいろなテクスチャーとなっているが、全体で違和感が出ないよう、空間の質を保つことに留意したとのこと。

隣の2-Cヘ。
そういえば、昔のアパートにはインターホンなんぞ無かった。呼び鈴かブザーが標準だろう。
壁を境に隣り合う2-Dの線対称とはせず、造作家具の材を変え、トイレの位置も異なるレイアウト。
キッチンからひと続きのリビングは同じ。また、上と下の画では、天井が200mm高くなっていることがよりわかりやすい。
リビングと寝室の仕切りは、2-Dではフラッシュパネルだったが、こちらは襖。
再利用している襖の場合、表装は汚れにくさを考慮して、白い襖紙ではなく壁紙を貼っている。引き手は、既製品の中からシンプルなシルバーのものを探した。
欄間の部分と、既存のたいこ梁はそのまま残し、露出させている。
寝室から、玄関方向の眺め。かつて押し入れがあったところ、半分開いた襖の奥に、据え置かれた洗濯機パンがみえる。

階段をおりてのぼって、再び西側の棟の2階へ。
未見の部屋は、残すところあと2つ、2-Aと2-Bである。
キッチンに面して取り付けられた大きな棚は、既出の1-Aと1-Dにもあったもの。
ボルトで支持した棚板は可動式。
棚の裏側は寝室で、間仕切りを挟んでデスクが造作されている。既出の画では、旧和室の押し入れを洗濯機置き場やトイレ空間に活用した例もあったが、こちらはかつて床の間だったところ(この後に見学する2-Bでは、また違った活用になっている)
ベランダから室内・リビングの眺め。構造用合板の裏面が窓サッシのかたちに切りとられている。
各室で久々に目にした、昔懐かしの砂壁。
西側の棟、残る1室2-Bへ(上の画、右奥)
洗面台に立て掛けられた改装前の内観写真を見ると、洗濯機パンが置かれた辺りは以前、和便式のトイレ(というより便所と呼称する方がしっくりくる)だったところ。
洋便座に慣れた身には今さらしんどいが、床に丸石を敷き詰めて、壁の下に白いタイルをまわした仕様が昭和っぽく、シブい。
リノベ前のキッチンの写真。先ほどの2-Aでも見たが、元の間仕切りを取り壊さず、奥行きのない空間を棚に転用している。
照明ともども内部の空間は一新され、エアコンも付いた。
先ほどの2-Aではデスクコーナーだった旧・床の間に収まったのはステンレスキッチン。柱を挟んで左側、押し入れの戸は取り払い、大型冷蔵庫が置けるようにした。
6戸の住居のうち、この2-Bのキッチン・リビングが最も広いように感じられる。かつては四畳半と六畳の和室で、2つに仕切っていた襖を取り払った。
2-Bの窓から、アプローチの見下ろし。
黒い壁によく映える白い郵便受け。住民用とシェアオフィス用の計7つが用意されている。ブラケット照明も新たに取り付けた。
2棟の間に掲げた看板はママではあるが、共有ラウンジの入口付近にも新たなサインを掲出。黒く塗装した壁にネジでカタカナ文字を固定したシンプルなもの(大田区にある町工場の仕事とのこと)
設計者であるPEA...の落合正行代表は、昨春から日本大学理工学部まちづくり工学科でも教えている。内覧会開始早々に見学したが、学生や関係者に混じり、近所の住民たちも気軽に訪れ、午前中は大盛況であった。
ワカミヤハイツ」の最新情報は、「あだち農まちプロジェクト」公式サイトまたはfacebookで公示される。賃貸情報はオシャレオモシロフドウサンメディア「ひつじ不動産」が詳しい。
なお、同PJでは、同様に"生産する場"を提供するものとして、「ワカミヤハイツ」から直線距離で1.4km離れているが、同じ足立区内にある体験農園「いこうファーム」にも関与している。

あだち農まちプロジェクト
http://adachi-noumachi.com/




+飲食のメモ。
「あだち農まちPJ」のFBでも紹介されていた、谷在家駅のそばにある本格インド・ネパール料理店「ナマステTokyo」でランチ。内覧会は日曜だったが、きわめてリーズナボーな料金設定。さらには、出てきたとき思わず「デカっ」とストレートな台詞が思わず口から洩れたくらいにナンがデカい。
本日のAランチ。サラダと、数種類から選べるカレーとドリンクが付き、ライスまたは甘めのナンが選べて、消費税込み780円。カレーを2つ付けた場合は880円。おトクである。ランチはこのほかガパオなど5-6種類あり。
おいしゅうございました。ごちそうさまでした。