白石ちえこ写真展「島影」@森岡書店

日本橋茅場町2丁目にある森岡書店にて、写真家の白石ちえこ氏の写真展を観る。このほど蒼穹舎から出版された写真集『島影』の刊行記念展。
写真集に収められ、会場にも出展されている18の銀塩写真(シルバーゼラチンプリント)は全て、"雑巾がけ"という技法で仕上げられている。

"雑巾がけ"とは、プリントした印画紙にオイルをひき、その上から油絵の具を塗り、布で拭き取るなどして手を加えたもの。その作業の様子から"雑巾がけ"と称される。
白石さんに教わったところ、もとを辿ると英国から伝わった技法で、今ほど精度がなかった時代、写真の明暗を補正・修復するための技術だった。それが、1920-30年頃に写真表現として日本の写真家が着目、一時期おおいに流行した。
なお、これらの技法にもいろいろあり、鉛筆を使っての加筆もアリだった。東京ミッドタウンの「フジフォルム スクエア」写真歴史博物館で開催中の「-知られざる日本芸術写真のパイオニア- 塩谷定好作品展」において、当時の技法による作品が見られるとのこと。
白石さんは2011年に東京都写真美術館で開催された企画展の関連ワークショップで、ずっと気になっていた"雑巾がけ"を、自分の作品ネガをつかってやってみたところ、作風や表現としても見事にハマり「これだ!」と思ったそうだ。その翌年に開いた個展「ペンギン島の日々」で、初めて"雑巾がけ"作品を発表している。
写真は全体的に黒い色調に包まれ、近付いてみると、建築物だったり植物だったり。被写体が画面の中に沈んでいたり、浮かび上がったり。建築の竣工写真ではまずお目にかかれない独特の表現。
左:55「Isahaya|Nagasaki」、右:61「Isahaya|Nagasaki」
左:17「Tono|Iwate」、右:53「Funabashi|Chiba」
印画紙にひくオイルは油絵を描く際に用いるペインティングオイルなので、油の絵の具との親和性が高い。白石さんが使う絵の具は黒一色。此処はもっと暗く(黒く)しよう、対照的にここはもっと明るく(抜く)という具合に、調整しながら色を足し、拭き取り、画面の中に光を再構築していく。「みる人によって、ファインダー越しに自分が撮った景色とは異なる世界を感じてくれることもある。それがまたおもしろい」と白石さん。
森岡書店のギャラリー空間は、日中は自然光の下での鑑賞。スポット照明があたると、また見え方が違うらしい。
2008年に冬青社から刊行された写真集『サボテンとしっぽ』(上の画、右上)に収められたある1枚の写真が、今回の新刊に"雑巾がけ"されて再録されている。会場に展示されているので、比較すると違いがよくわかる。

白石ちえこ写真展「島影」は7月4日まで。開廊は書店営業時間と同じ13-20時、入場無料。来週9日から岡山の[Gallery722]でも開催される。
作家の在廊情報は、白石さんのTwitterにて。
関東大震災の4年後・昭和2年(1927)竣工の《第2井上ビル》3階に入っている森岡書店。目印はエントランスドアの下に置かれたこのサイン。
2008年に吉村靖孝氏による「"カラー版"超合法建築図鑑」展 関連トークイベントを聴講した際もさんざん迷ったものだ。
先月、銀座1丁目に残る昭和4年竣工のビルの1階に、"一冊の本を売る書店"をオープンして話題の森岡書店。此処、茅場町でのギャラリー貸し出しは、今のところ本展が最後とのこと。



+飲食のメモ。
茅場町交差点近くにある「イマノフルーツファクトリー」にて。1952年創業、店内に置かれていた掲載誌によれば、三代にわたって果物専門店を営んでいるとのこと。

メロンやマンゴーなどの旬の果物を使ったジュース、スムージーをはじめ、カットフルーツ、ゼリー、ロールケーキ、上階にある BISTRO SABLIER(ビストロサブリエ)で作っている「今月のタルト」など、目移りするほど各種販売。常連客のテイクアウトが多いようだが、店内の小さなカウンター席でもいただける。
グレープフルーツ、オレンジ、キウイ、メロン、バナナなどがザクザクと入り、バタークリームで挟まった「季節のフルーツサンド」が350円、その場でシェイクしてくれた「アボガドヨーグルトジュース」が330円(共に消費税込み)。こんなにボリューミーでなんとお値打ち! そしておいしかったー。ごちそうさまでした。