坂茂氏講演「アイカ現代建築セミナー」聴講メモ

アイカ工業主催「第61回 アイカ現代建築セミナー」を聴講。講師は坂茂氏。

定員772名の会場有楽町朝日ホールは満員御礼。駆け込み入場者の着席を待ってから、約5分遅れでほぼ定刻に開演。短い主催者挨拶を挟んで「作品づくりと社会貢献の両立を目指して」をテーマに坂氏による講演スタート。

前フリも見事に時おり洒脱なジョークも交えながら、1時間で過去の作品事例から最新の《大分県立美術館》まで一気に語り、後半は日本を含む世界各地の災害被災地での仮設住宅づくりの話。スピーディな展開を20時にいったん締めくくった後、質疑応答に。

場内撮影禁止につき、以下は質疑応答も含めた聴講時のメモ。

登場した主な作品:「アルヴァ・アールト展」会場構成、家具の家、紙の家(自身の別荘)、小田原パピリオン、ハノーバー国際博覧会2000日本館、ノマディック・ミュージアム、カーテンウォールの家、2/5ハウス、ピクチャー・ウィンドウの家、VILLA VISTA、ニコラス・G ・ハイエック センター、メタル シャッター ハウス、ポンピドー・センター内期間限定仮設パリ事務所、ポンヒドー・センター・メス、韓国驪州のクラブハウス、アスペン美術館、大分県立美術館、紙の教会(カトリックたかとり教会仮設集会所、後に台湾地震被災地に移築)、ルワンダ難民キャンプにおけるシェルター、スマトラ、インド、伊ラクイラ、ハイチ、における仮設住宅、紙の間仕切り@大槌町体育館、コンテナ多層仮設住宅@宮城県女川町、成都市華林小学校紙管仮設校舎・四川大地震復興プロジェクト、クライストチャーチ大聖堂

・仮設住宅は紙で建てることが第一の目的ではなく、土台とするビールケースも含めて現地にあるもので建材をまかない、簡単に建てられて、かつ構造などの安全性もクリアしていることが大前提
・コンテナで構築した《ノマディック美術館》もそっくり移動する必要はなく、国際規格であるコンテナを巡回先で調達すればよい
・使い手が愛し、誇りとしてくれる建築をつくることに、仮設・公共を問わず同等の喜びを感じる
・金儲けのために作られた建築は例えコンクリート造でもパーマネントにはならず、仮設で終わる(例えば築50年で取り壊された《赤プリ》など)
・愛される建築を建てるには、1にクライアントの要望をきちんと聞く、2つにはコンテクスト(場所性)の良さを引き出す
・心地よい建築(住宅)の条件は、1つに光と風が感じられる自然換気ができ、2つには中間領域をもった空間(中間領域とは、なにも日本の縁側空間だけでなく、カフェのテラスなど国際的に共通する)
・仮設住宅で難しいのは、悪過ぎても、良過ぎ=快適過ぎてもダメということ
・現地を見ずに(気候条件などを確認せずに)他所での成功例を徒に持ち込んでも失敗する(トルコの被災地での経験)
・現地の気候・建材・宗教などが絡み合うため、仮設住宅を単一的にユニット化することはできない
・被災地に駆け付ける初動時の費用は全て持ち出し。寄付が集まってからでは間に合わない
・"名乗らずに去る"のを美徳とする日本人的ヒロイズムは国際社会では通用しない。効果をきちんと説明し、必要なパブリシティもうたないと絶対に理解されない
・自分の考えを相手に理解してもらうプレゼン力、論理構成は学生時代に養う必要がある


あと1名の質疑でラストという段で、坂氏が「新国立競技場の質問が出なくてホッとしました」という絶妙な間でのジョークを発す。場内爆笑し、講演は終了。
来場者向け配布物のなかに、今秋10月に現在の練馬から西新宿のNSビル22階に東京ショールームを移転するとの案内あり。三つ折りの講師略歴とともに、開演まで臨時営業の飲食スタンドでKEY COFFEE(400円)を味わう。出店はホール利用のオプションメニューだそうだが、サンドウィッチやバームクーヘンもあり、18時半の開演に間に合うよう、勤務先から直行したとみられる来場者の空腹を満たしていた。

アイカ工業(株)
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