藤本壮介×戸恒浩人「雲の椅子の紙の森」@オカムラデザインスペースR

紀尾井町のオカムラデザインスペースR(以下:ODS-R)にて、この時期恒例となっている企画展「雲の椅子の紙の森」を見る。藤本壮介氏と照明デザイナーの戸恒浩人氏によるインスタレーションが31日まで開催されている。
本展は、ODS-R企画実行委員会が毎年指名する建築家と、建築領域以外の表現者との恊働によって、新しく独創的な空間・風景の創出"を目指すもの。
会場には、座と背が和紙でできた白い椅子20脚が配置され、会場全体あるいは一部に、白い光が柔らかく、時に強く照射される。光と影、濃と淡が繰り返される会場は、色がついていないモノトーンの世界ながら、実に多様な表情をみせ、建築のような、家具のような、自然の一部のような、まっこと藤本氏ならではの空間となっている。

18-20時に開催されたシンポジウムでの関係者の発言によると、プランは変更されること数度。ボツ案は今とは似ても似つかない。オカムラの"顔"ともいえる椅子を和紙でつくり、森のような雲のような空間を出現させるべく、戸恒氏率いるシリウスライティングオフィスに声がかかったのは今年5月。2008年竣工の《House N》以来、医療施設、ミラノサローネ会場構成、大学図書館、国際コンペなど数々の現場を藤本壮介建築設計事務所と恊働してきた戸恒氏いわく、「藤本作品では普通の照明計画が成り立たず、実に照明デザイナー泣かせ」だそうだが、両氏の間には阿吽の呼吸があるようで、今回の展示プランを目にした時、即座に100ほどのイメージが浮かんだという。

照明パターンは大きく4つ設定されている。下の画は戸恒事務所が用意した会場配布物。
どこから眺めてもいいのだが、以下4枚は会場向かいの"特等席"からの眺め。
床に大きい影の濃淡が広がり、空間の奥行きを感じさせるための光で構成した「重ね」。
雲状の椅子に影が落ちるなど、元とは異なるカタチとなって、見る者に異なる印象を与える「切取り」。
床の微妙な影の変化にも要注目。
和紙の特徴を生かした「透け」。逆光によって和紙の下のスチールの背がほのかに浮かび上がる。
会場全体が最も明るくなる「繋がり」。複数の面が連続して大きな塊に。複数の3次元の群れをフラットに見せるライティング。

4つの調光パターンはランダムに切り替わるようプログラミングされ、照明ごとにアドレスがふられているので、微妙に調光を変えることができる(協力:コイズミ照明、DALI:digital Addressable Lighting Interface )。飛行中の飛行機の窓から眺めた雲海と同様に、見る時間帯や見る角度によって、同じ風景は二度と見られない。
出入口側のガラス面は敢えて塞がず、外光が入ってくる右斜めの角度を意識したライティング。それらの効果を「時々、ふわあっと薄明かりが場内に流れ込んで、それがまた美しい」と藤本氏。自然光とLEDの人工灯とが混じり合うさまを、戸恒氏も「和紙だからこそ生まれた柔らかい光に満ちていて、時に霧が立ちこめたかのよう」と印象を語った。
適度な強度をもたせたうえで、"透け感"にこだわって選んだ和紙による、フリーハンドでラインを描いたような椅子の型は、実は1つしかない。傾きを変え、5パターンをつくった(会場で教わるまで、椅子の数だけ型があるのだとばかり思っていた)。そして藤本事務所のスタッフがカッターで切り抜いたと聞き、さらに驚く。
椅子は全て座ることが出来る。紙だけで作ることも考えたそうだが、さすがにムリだったので、脚と座と背はスチールで造作。
場内に自由に入れることも本展の特徴(梅雨どきにスタートしたというのに"土禁"ではナイ。スタッフが毎朝掃除して、白さを保っている)。「モノ(椅子)が主役になってしまうような、ただ外から眺めるだけの展示はイヤだった。人が内部に入り込み、インタラクティブな関係を結べる空間となってこそ、建築といえる」という藤本氏の意向による。
「立ったり座ったりするだけで、いろんな重なり具合、曲線の連なりも違ってくるので、会場ではあちこち歩き回り、椅子にも腰掛けて欲しい」と藤本氏。戸恒氏による絶妙な調光により、場内はいわば晴れたり曇ったり。ホテルニューオータニの館内に居ながら、藤本氏がよく使う表現ーー"まるで森を歩いているような感じ"になってくる。
1つの椅子に対し、天井からのスポット照明は3つ。「繋がり」の調光時にはかなりの明るさに。会場を見た照明メーカーの知り合いによれば、ここまで微妙にふんわりとした調光は極めてハイレベル。LEDによる表現の可能性が拡がった、との談。
「唐辛子を放り込んでアクセントをつける料理ではなく、ちゃんと昆布で出汁をとったぞというライティングにしたかった」とは、シンポジウムでの戸恒氏の例え。「光そのものには遠近感が無いので、本展示では奥行きを感じさせるための光をどうつくるかを意識した」。
床に落ちる影の有無、大きさと形状、濃淡が刻々と変化し、それに背景の椅子のグラデーションが加わり、見飽きない。これは是非、会場で堪能して欲しい。
設営しながら椅子の配置を藤本氏が変えるであろうことは戸恒氏も想定していたそうだが、18の予定が2つ加算されたり、調整はギリギリまでずれこんだ。キマったのは「オープンの1分前」(どんな仕事でも何故かギリギリまで持ち越し、どんなことがあっても不思議と1分前にピタッと終わる:戸恒氏談)
「インドアでのインスタレーションは実は苦手」と語った藤本氏だが、「元は1つの形という統一感がありながら、多様性のある展示になった。建築と家具の間のような、紙だけれども森、人工物だけれども自然ぽい、きわめて建築的な場を作ることができた」とのこと。戸恒氏も「光のグレースケールで、白から黒まで使い切った。要所でばちっと光をあてつつも、ある場面では柔らかい光もあるという会場に仕上がった」と今回の恊働を振り返る。

下の画:シンポジウムに出席した関係者。左から、戸恒氏、藤本氏、ODS-R企画実行委員長の川向正人氏。
雲の椅子の紙の森」は7月31日まで(19,20,26日休館)。開廊はオカムラガーデンコートショールームの営業時間と同じ10-18時だが、火曜と金曜に限り、1時間延長して18-19時に特別照明演出がある(ネタバレ:通常よりテンポが早くなる。特別照明演出を見る場合は、17時45分までに要入館。入場無料。

オカムラデザインスペースR「雲の椅子の紙の森」
www.okamura.co.jp/company/topics/exhibition/2015/r_13.php




+飲食のメモ。
ホテルニューオータニ内にも飲食店は多数あるが、本館を抜け、盛夏は夜でも蝉がなく桜並木を見上げながら、歩いて四ツ谷に出る。金曜の夜なので待たされようが、今夏初となる支那そば屋「こうや」で食べようと心に決めていた。ラストオーダーは22時半。
[こうや] といえば「皿ワンタン」。
ビールに合う「大蒜芽とレバーの炒め」。
そしてこの時期外せないのは冷やし中華。セロリ、白髪ネギ、蒸し鶏、ほぐしカニ、キクラゲ、千切りキュウリを掻き分け掻き分け、食べても食べてもなかなか減らない、ゴマだれの「上海涼麺」。
最髙でございます。今夏も美味しゅうございました。ごちそうさまでした。