「木を知り、木を使い、木を活かす Vol.2」@ギャラリー5610

Vol.1となる展示は、東大大学院木質材料学研究室単独で、2010年に同会場で開催されている。同研究室では、稲山正弘教授を中心に、木質材料、木質構造、環境問題の面で、持続可能な建築材としての木材の可能性と活用について、ざまざまな研究を重ねてきた。同様に、早大古谷研でも木材を軸とする3つの研究活動があり、建築家の山崎泰孝氏も名を連ねる共同研究「木質空間研究会」(2007年発足)を通じて、稲山研とは交流があった。本展では初めて合同で、これまでの研究成果を発表する。

約75平米の会場は床一面、木チップが敷かれている。入口のマットで靴裏の汚れを払い、場内に足を踏み入れると、足元でチップが軋む小さな音がして、同時に檜の芳香に包まれる。
カーペット敷きの会場を汚さないよう予めシートを敷き、壁との境も板きれで養生した上に、袋売りされている檜のチップを敷き詰めた(設営の様子:同「スタッフブログ」)。古谷氏が代表を務める STUDIO NASCA が設計し、木材を活かして建てられた美術館や図書館の内外観によるバナーが空間を要所で引き締め、同時に柔らかな雰囲気を加味する(会場デザインは古谷研、設営は2校恊働)
参考:前回の「木を知り、木を使い、木を活かす」展の様子と、木質材料学研究室公式サイト〜About Laboratory と、ギャラリー5610の「スタッフブログ」に掲出されており、チップを敷く前の状態が判る。

木質材料学研究室では、所属学生全員への課題として、毎年テーマを変えて設計コンペが行なわれている。最優秀作品は1/1サイズで制作し、五月祭で披露される。今年のテーマは「合板を使った折板構造」で、2作品が選出された。
左側手前:「Edge」、右側奥「UROKO」
小さな合板ブロックを積み重ねた展示台は、大人が腰掛けても問題ない強度がある。
「Edge」の模型を真上から。偏心させて頂点をずらした折板屋根を、6本の"柱"が支え合う構造(模型の展示キャプションより)。五月祭同様、本展でも1/1サイズで屋外に展示されている。
「Edge」は可能な限り薄い合板で作られている。
折板屋根の下にはそれぞれ形状の異なる木製ベンチが3つ。
「UROKO」の展示はさらに外、通りに面した駐車場。本展へのアクセスはこれを目印にするとよい(下の画から数えて、1,2,7枚めの外観、3枚めの見上げは、会場ギャラリー5610撮影・提供)
"集まることでまったく違う形、機能を発揮する魚の鱗をイメージした"とのこと(出展模型のキャプションより)
晴天下の昼過ぎ、上の画のような光と影のパターンが床面に。
通りを背に、ドーム中央部分の見上げ。
「UROKO」の床板。こちらも何やらウロコ状。
道往く人々がドームの下で憩えるよう、テーブルとベンチが用意されている(隙間があるので雨はしのげません)
合板から切り出した小さな部材をL字に嵌合させ、アーチ状に組んでいる。
「Edge」と「UROKO」は共に、材料の加工から施工まで全て学生が行なっている(設営の様子:前出「ブログ」)
再び館内の会場に戻り、古谷研の展示を見学。
古谷研では大きく3つの研究グループがある。前述の「木質空間研究会」、「吉野材を活かした木質空間デザインの提案」、そして「森が学校計画産学共同研究会」である。
「森が学校計画産学共同研究会」では、4年前の震災で被災した、宮城県東松山市野蒜小学校ほか2校の移転計画と、C.W.ニコル・アファンの森財団が提唱する「森の学校」構想に基づき、建設予定地の裏にある山に、建築的アプローチから「復興の森」を整備するプロジェクトが進行中。
2014年には「うまのひづめ展望デッキ」が森の中に完成し、続けて「サウンドシェルター」が建つ予定(左側のパネルが完成予想CG)。「森の学校」のイメージ画の隅に、筏のようなものに繋がれた馬が描かれている理由は、山から伐り出した木材を馬で運搬する馬搬(ばはん)の伝統を受け継ぎ、現地で実践しているため。重機に頼らず、PJの構造物も鉄クギを使わずに制作する。
"裏山"と呼ぶには広く大きい敷地。古谷研の学生がつくったベンチなどは、全景模型でも木立の中に埋もれて点在しているので、会場スタッフに「コレは何か」と教えを乞うべし。
吉野材の事例のひとつに、長野県小諸市にある安藤百福記念自然体験活動指導者養成センターにおける「小諸ツリーハウスプロジェクト」として建てられた《又庵(yu-an)》がある(2012年、STUDIO NASCA。樹齢130年の吉野杉から製材された材が使われ、天井から床に真っすぐに揃った柾目の美しさが際立つ(上の画左側、および3枚上の場内・左側のバナー)
吉野林業は樽丸林業とも呼ばれ、酒樽に最適な木材として、特別に手をかけ、百年単位で育成される。上の画・会場のパネルでもわかるように、年輪幅が均等かつフシ目のない、油分が多いので色艶も美しい材となる(参考:吉野製材工業協同組合 吉野材センター公式サイト。だが、林業として苦境に立たされているのは国内いずこも同じ。
伐採材や端材を無駄にしない「吉野割箸」は明治期から作られている。古谷研のチームでは過去に、この高級割箸にふさわしい「箸袋」を提案したり、近鉄吉野駅に設置する幅18メートルの吉野材ベンチをデザインしている。

ところで、壁にかけられた展示パネルだが、これは会場の備品ではなく、古谷教授が持ち込んだもの。2014年に「古谷誠章展 NASCAが発想する建築」を開催した際、展示するスケッチなどのサイズに合わせてオリジナルで制作された。
前述「木質空間研究会」ではプロポーザルにも積極的に参加。2013年に竣工した熊本県の《山鹿市立鹿北小学校》では、地元産の杉材を採用。木造部分の間にRC造を挿入することで、構造と法規のハードルをクリアした大規模公共建築を実現させた(上の画、中央の写真が外観。内観はバナーで確認できる)。同作品は2015年度の日本建築学会作品選奨を受賞している(学会資料.pdf
さまざまなPJや事例から、国内産業の諸問題までみえてくる「木を知り、木を使い、木を活かす Vol.2」は8月6日まで(会期中無休)、開廊は11-18時。入場無料。

後日のリンク追記:
古谷研のサイトにアップされた、24日に開催されたトークショーと会場レポート
www.furuya.arch.waseda.ac.jp/2015/08/01/moku-ex-report/

会場:ギャラリー5610
www.deska.jp/




+飲食のメモ。
道を挟んで会場・5610番館の真向かいにある[crirrcross OMOTESANDO] にて軽食。真ん中にゆったりと設けられたテラス席を取り囲むようにして、奥にレストラン、オールデイカフェ[crisscross]、手前にベーカリー[breadworks 表参道店]がある。カフェはパンケーキが人気らしいが、ベーカリー[breadworks]で買ったパンを持ち込めるので、着席してドリンクのみ注文する。アイスティーは消費税込み¥500(おかわり自由、ブレンドコーヒーのホット¥600も同じく可)
トリュフ風味の4種のキノコピザ(¥380)、トングで掴んだ瞬間、ずっしりと重かったバナナマフィン(¥350)、ハモンセラーノとチーズのパン(¥180)。どれもおいしすぎてヤバいです。
ごちそうさまでした。

crirrcross OMOTESANDO
https://www.tysons.jp/omotesando