アトリエハコ《本町の住宅》オープンハウス

アトリエハコ建築設計事務所によるオープンハウスを見学。

立地は都内の第一種住居地域で、奥に長い敷地面積は約13坪。区が定める建ぺい率と、容積率のバランスをはかり、光に満ちた室内空間を最大限に確保した、地上3階の木造住宅。

施主が希望したのは"小屋っぽい家"。この外観をチラと見ただけでは、設計および施工の労苦は全く窺い知れず。アトリエハコ建築設計事務所の代表を共同で務める七島幸之さんと佐野友美さんに現場であれこれと教わり、住宅密集地にはつきものの各種法規制をクリアし、活用したうえで、建っているとわかる。

前面道路からのセットバックは天空率との絡み。但し、この条件で建ぺい率いっぱい(60%)に建てた場合、こんどは容積率(160%)をオーバーしてしまう。そのため、玄関前にポーチ、室内に吹き抜けを設けるなどして適合させている。
3.9mの幅に対して、建物の短辺は2.9m。敷地も細くてカーブした道の先にある。ゆえに工事は苦労の連続。横方向への耐震性能を確保するため、当初考えていた柱状改良ができず、先端羽根付き鋼管杭を打ち込む方法に変更して地盤改良を行なった。基礎部分の生コン打設では、敷地の前まではどうにか搬入できたミキサーとの間を手押し車でピストン輸送。複雑な木軸の柱と梁も全て人力で上げた(工事の様子は事務所のブログを参照)
準防火地域だったこともあり、外装は素地のガルバリウム鋼板の横張り。長辺側の施工では、既製品の最大尺6mママでは搬入できず、半分にカットした部材で施工した。
出隅・入隅の仕上げがとてもきれいで、中に入る前からまじまじと見てしまった。
オープンハウス後、区によるセットバック工事が済んでから、玄関まわりの植栽を行なわれる予定。十字桟が入った玄関の観音扉は、外からは木製っぽく見えたが、スチール製の特注品。
施主夫妻の交友関係の広さを反映して見学者多数、手荷物預かりを置いても余裕ある玄関。ご主人の生家には土間があり、また海外での生活で広い玄関の使い勝手にも慣れていたので、多目的に使えるエントランスをと望まれ、1階の約1/4を占める。天井にはレール可動式のスポットライトを用意。
改めて、玄関先から内部の様子。
モルタル仕上げの土間の先、正面にみえる引き戸の奥に施主夫妻の寝室がある。
新しいおうちができたハレの日に、ハイテンションの子どもたち。
なお、通常のオープンハウスは引き渡し前に行なわれるため"がらんどう"だが、今回は施主の厚意により、事前に家具類が運び込まれ、生活感の演出に協力してくださっている。
トイレは階段下のスペースに格納。
ずどんと埋め込んだ支柱に支えられた鉄骨階段。但し、1-2階部分の踏面と蹴込はバーチフローリング仕上げ、2階から上は鉄骨+白色塗装として、ビジュアルにも変化をつけている。
2階に着いたところから、フロアが左右に分かれる。上の写真の左手側がリビング、段差が連続して高くなっている右側にダイニングとキッチンがある。
段差の上から、2階リビングの眺め。
テレビ台は置かず、壁に直接取り付けた。壁付きの家具はデンマーク製のウォールユニット。キャビネット、チェスト、棚板の位置をタボ穴で調整できる。この家具の連なりにあわせて、リビングのスケールも自ずと決まった。
外から見上げた時はごくふつうのサッシ窓だったが、内部には木製の十字桟が取り付けられていた。木の窓枠とあわせて、雰囲気のある窓辺空間を演出。
リビングの奥から、階段空間を挟んで、ダイニング+キッチンの見通し。スキップフロアになっていることがわかる。右手の壁にはハイサイドライトが3つ。
ダイニング+キッチンの天井見上げ。2箇所に開口があり、吹き抜けになっている。最も暗いはずの北側が、驚くほど光溢れる空間に。かつ、この"抜け"によって、容積率の課題もクリアしている。
キッチンは施主の要望にあわせて造作。
家族の食卓は吹き抜けの真下に。
ダイニングのスツール(artekのStool 60)に腰掛けての3階見上げ。
下の写真は逆に上からの2階見下ろし。
気付けば2時間ほどこの家に長居したのだが、吹き抜け空間で刻々と変化する光と影がとても美しかった。この光の効果を生かすため、内装はこの白さにこだわった。
階段空間にて、2階からの見上げ。
2階から3階へ向かう途中の見下ろし。この階段も建築基準法の定める数値内の納まり。
3階に到着。バスルームと洗面室は、ダイニング+キッチンの真上に位置する。
バスルーム。手摺りの向こうがキッチンの吹き抜け。換気ダクトが見えている。
1階のドアにも使われていたが、床材は構造用合板のカナダ製OSBパネル。
洗面台脇の袖壁や、子ども部屋の材もOSBで統一。袖壁は入浴時に服を脱ぎ着する際の一応の目隠しにはなるが、仕切りは緩い。今のところカーテンで仕切る予定もない。
水まわりの反対・南側に、子どものための部屋が2つ並ぶ。こちらの壁はオイル塗装で仕上げず、変化をつけている。2室の間は引き残し無しでスッキリ格納できる引き戸で仕切る。
オープンハウス開催直前に納まったという、子ども部屋クローゼットのハンガー掛け。材はなんとガス管。施主のライフスタイルを踏まえて、アトリエハコが提案したアイデアを実現したもの。
これからデスクなどが入る子ども部屋。寝る場所は窓に面して設けた"2段ベッド"で。
手前の子ども部屋の主が専有するベッドルーム。まるで秘密基地だ。

「施主夫妻はデザイン関係の仕事をしているので、細部にこだわりをお持ちでしたが、こちらの提案に対し、具体的なイメージをパッと共有してくれました。主に下地材として使われるOSBも、インダストリアルなテクスチャーとして面白がってくれたり、空間の捉え方やセンスの面で多くを共有できたことは、大きな助けとなりました」(七島さん&佐野さん談)。事務所が手掛けた《オシアゲマンションリノベーション》の施主を通して知り合い、今回の設計依頼があったとのこと。
「屋上は絶対に欲しい」というリクエストも実現。まわりに高い建物がないので、塔屋から出てきた時の開放感が大きい。
屋上・道路側から北側の眺め。右奥の天窓は、2階キッチンの吹き抜けの上。
家族の生活に必要な各部屋を、
中央の階段を介して柔らかく繋げました。
天井高や光の取り入れ方などそれぞれにニュアンスの異なる空間と、
それらを繋ぐ居場所としての階段。


案内状のテキストにあった通り、まさに「周囲を近隣家屋に取り囲まれているとは思えない、 シークエンス豊かな、光に包まれたインテリアの住まい」でした。

アトリエハコ建築設計事務所
www.hako-arch.com/




+飲食のメモ。
案内状の地図に目印のひとつとして記されていたこちらのお店。てっきりアトリエハコのおふたりが工事中に通い詰めたのであろうと思いきや、「ずっと気になっていながら未だ一度も」と意外な返し。お施主さんの笑諾も得て、以下に併記。
基本的に日曜の9-19時しか営業しないというおかし屋さん [Sunday Bake] 。慣れた感じの常連客がひっきりなしに訪れ、大盛況。

店の公式ブログを読むと、この日は店の旧知のコーヒーショップ(Ashore coffee shack)のバリスタ氏が出張営業していたらしい。
ジャムとクリームがサンドされたビクトリアスポンジ(¥450)とアイスコーヒー(¥400)を、たまたま空いていたカウンター席でいただく。テイクアウトしたバナナブレッド(¥350)とコーンミールアーモンドブレッド(¥400)も、ざっくりと粗い、好みの生地で、たいへん美味しゅうございました(しかも大きいからウレシイ)。ごちそうさまでした。

Sunday Bake
http://sundaybakeshop.com/