「the SAKAN」展 @ Gallery A4

東陽町の竹中工務店東京本店1階にある Gallery A4(ギャラリー エー クワッド)にて、公益財団法人竹中大工道具館主催による企画展「the SAKAN 継承と革新」が開催されている。
土壁の魅力、左官職人の手技などを紹介する展示。東京会場に続き、来年の秋には神戸市にある《竹中大具道具館》でも開催される予定。

東京展会場入口に聳える「土の門」は、左官職人の久住有生氏左官株式会社 親方)らがつくりあげた作品。会期初日に「美を創る匠の技」と題して行なわれたオープニングイベントで、中塗りの公開制作が行なわれた。木の下地+金網+モルタルで下地が出来ている状態から、職人4-5人による中塗りが2回、所要は予定通りの2時間ほどであった。
上と下の画、立っている人物が久住有生さん(8月17日撮影)
塗りの材は、久住氏の出身地でアトリエも構える淡路の土に藁を混ぜ、荒壁に適したオリジナルの中塗土。
上が会期初日の16時半頃の画。未だ完成形ではない。水分を含んで表面にテカりがみえる「土の門」に、人工灯下で四方から扇風機で風を送り、3日ほど乾燥させてやっと作品として完成(会期が短いための処置,本来は自然乾燥が望ましい)。下の画は25日が経過した現在の姿。
乾燥して表面に細かい亀裂が入った「ひび割れ仕上げ」。ヒビが入るように塗り材を調合してある。表面は硬化し、色味も変化。後ろに建ち上がっている版築作品「土の造形」の色も同様に。
版築とは、木で型枠を組んで、その中に土を入れて上から突き固めながら仕上げていく工法。フライヤーのテキストに説明を借りると「土の粒子が崩壊寸前の状態で維持される様」である。久住氏によるこの「土の造形」は、中央部を裂き、片側の表面も荒々しく削り取り、静寂な層との対比を観る作品となっている(上の画は9月11日,以降は8月17日の撮影)
時間経過で風合も変化するのが土壁の魅力のひとつ。つくり出すのは人の力と技。驚くほど多彩な左官壁について、そのごく一部となるが、本展では学び取ることができる。
右のパネル:「京錆土投げ苆引き摺り仕上げ」奥田信雄作品
現代最古とされる土壁、京都大徳寺玉林院蓑庵(さあん)が、300年前に竣工した当時の仕上げを想定して再現したもの。表面に苆(スサ)の稲藁が確認できる。

土による建物は大昔から世界中にあるが、日本では貴族文化の熟成に従い、土壁の上から別の土や漆喰を上塗りして仕上げる「左官」の職分が独立し、京都を中心に発展してきた。時代が下り、火事が多かった江戸では、耐火の面から土蔵造りの技術が進んだ。"小江戸"と呼ばれる川越の一部の地域において、当時の町並みを留めている。
註.上の2枚は今年5月に川越"蔵づくりゾーン"で撮影したもの

会場では「左官小史ー東京編ー」と題して、安土桃山時代後期の城郭建築の壁づくりから、江戸、近代の東京にいたる流れを辿る資料も展示されている。木鏝を経て金鏝の製法も進化し、江戸の末から明示初期にかけて現在主流の「中首鏝」が使われるようになり、道具としてほぼ完成形をみる。この頃にやっと土で平らな壁を塗れるようになり、漆喰による細かな造形も可能になったと考えられている(漆喰鏝絵で知られる伊豆の長八が活躍したのもこの頃)。文明開化後は洋風建築の装飾に用いられ、文字通りの華に。西洋風に不慣れな職人は『和洋左官雛形』などの見本帳を手引きとした(見開きで会場展示中)
註.上の2枚は洋風の漆喰左官のイメージ、共に復原後のもの
(旧《朝香宮邸》大客室天井の装飾,《東京駅丸の内駅舎》ドーム/黄卵色の壁と干支レリーフは漆喰)

さて、「職人が鏝ひとつで」とはよく云うが、会場に出展されている鏝の多いこと! 塗る材、配合、工程、塗る面の下地や大きさ、表面の仕上げを「押さえる」か「撫でる」かによっても使い分ける必要があるからだ。さらに鏝鍛冶と左官職人(所有者)、京と江戸でも呼称が違うというからややこしい。
会場には、幕末から明治にかけて京都で使われていた鏝のほか、久住有生氏の父である章氏所有の鏝が600丁が並ぶ。会場では、日本の伝統空間で例えられる「真・行・草」の3つの土壁を例に、それぞれで必要な鏝が共に展示されている。
「真・行・草」のひとつ、最もくだけた仕様の「草」の土壁。引き摺り痕をつけている。用いられる鏝は、所有者の呼称では4種類。微妙に金属部分の大きさなどが違う。
こちらも久住章氏所有の鏝。元首、中首あわせて漆喰で用いる鏝がまとめられている。
「磨き」と呼ばれる仕上げで使われる鏝。久住章氏が若い頃に使っていたもの。
"カリスマ左官"として著名な章氏は、現場に最も適した鏝をイチからつくる。鍛冶職人とのマンツーマンの制作風景を、会場で上映中の「魂の継承と革新の技 ー左官職人・久住章氏の世界ー」のなかに垣間見ることができる(2015,再生時間約16分)。実務的な映像資料はもうひとつ、「京錆土投げ苆切り摺り仕上げ」もループ上映中(2015,再生時間22分)
多彩な仕上げの事例集として、壁一面には、久住章、有生、誠氏(章氏の御二男)による左官サンプルコラージュの展示も。『壁の遊び人=左官・久住章の仕事(2004,世織書房)の記述、および後述・講演会での有生氏の発言によれば、淡路の久住家では、息子さんは二人とも小学校の頃から夕食までの1時間、毎日必ず左官の練習を課せられ、壁塗りが終わらないと晩ゴハン抜きに。
上の画、中央上に写っている波状のサンプルは、伊東豊雄建築設計事務所がシンガポールのラッフルズプレイスで手掛けたオフィスビル《キャピタグリーン(施工・管理:竹中工務店)のエレベーターホールの壁(下の画、右下)を、久住有生氏が仕上げた左官作品に似ている。この上方には京都の輪違屋の1室「もみじの間」で手掛けた左官のサンプルも。
11日の夜には竹中工務店東京本店2階のホールに、久住有生、伊東豊雄の両氏を招き、「現代建築と土」と題して講演会も開催された。対談ではなく、持ち時間半々のプレゼンテーション。
久住氏は保育園や小学校、ホテル、飲食店の壁を多数、仕上げており、初めて東京で手掛けた公共施設事例である《港区立芝浦小学校・幼稚園》エントランスの大壁、常滑のINAXライブミュージアム《土・どろんこ館》の版築の外壁と館内ホールの壁、橋本夕紀夫デザインスタジオが内装設計を手掛けたショコラ専門店 [PATISSIER eS KOYAMA]の壁のほか、かなりのスライドが用意されていたが、終盤は早送りに。解説するには時間が足りず。
「the SAKAN」東京展に備忘録を戻す。会場は二部構成。「榎本新吉 東京鏝の粋」と題して、2年前に逝去した左官職人のストレートな語録と共に、生み出された技法、技を支えた鏝の数々を紹介。磨きの技法を昇華させたのが、会場にも展示されている「泥ダンゴ」である。
「左官とは環境をつくること。誰も気付かないような細部にこだわり、壁も床もそれぞれが決して出しゃばらない、それが日本建築本来の美」と久住有生氏が講演の席で語っていたが、本展は左官が堂々の主役を務める。
受付では東京展のパンフレットも販売(¥100)

Gallery A4(ギャラリー エー クワッド)THE SAKAN 継承と革新」会期は9月26日まで。日曜祝日休館、開館は10-18時(最終日は17時まで)、入場無料。

Gallery A4(ギャラリー エー クワッド)
www.a-quad.jp/




+飲食のメモ。
数年前まで東陽町に勤務していたOさんから教わった中華屋 [好好] へ。

聞いていた通り、皮むっちりの手づくりギョーザ(5個で¥380+税)と、手うち麺がおいしい。しかも安い。下の画は豚肉の細切り麺(¥800)
平日はランチ営業もあり。

おいしゅうございました。ごちそうさまでした。

好好(ハオハオ)
www.gyoza-haohao.jp/