「AnyTokyo 2015」@増上寺

今年で開催3回めとなるデザインイベント「AnyTokyo(エニートーキョー)」。会場は昨年と同じ、芝公園4丁目の増上寺 光摂殿。

テーマは「DIVERSITY & BEAUTY」=美しき多様性。
光摂殿内の展示会場に流されている空間音楽(制作:Kan Sano氏)を含め、出展作家は16組。

なお、今年は階段を上がったところに屋外展示もあるのでお見逃しなきよう。
エマニュエル・ムホーemmanuelle moureaux architecture + design「1坪の100色(100 colors in 3.3m2  註.m2=平米を表す単位記号
増上寺には内外から、とりわけ外国からの観光客が多数訪れる。大殿や宝物殿(画面の奥)を参拝した後に「あれは何だ?」とやって来て、そのまま撮影会に。
「100 colors」と銘打った作品は、2013年9月の西新宿、渋谷ヒカリエでの展示、昨年の「新宿クリエイターズ・フェスタ」、「TOKYO DESIGNERS WEEK」での《MINO》と見てきて、毎回その美しさ、美しさの根本である繊細なカッティングに驚嘆するが、今回のが最も"極細"な仕事ではなかろうか。
吊り下げられているのは5mm幅でカットされた100色の紙、その数3万本。ムホー事務所のスタッフがカッターを握りしめての手作業というから敬服する。
畳の目の違いで市松にみえる、2畳の白畳の上に寝転んで見上げた画。よいしょと背を起こすと、色の束の中に顔が埋ずまる高さになるように色紙が配置されている。
ライトアップされる日没後は、昼間とはまた違った雰囲気に。無風と風にそよいだ時とでまた佇まいが違う。
光摂殿の軸線上に据えただけでなく、境内のそのほか堂宇、東京タワー、まわりにみえる建物や緑との調和を考えて、作品を置く位置を決めたとのこと。
会期中、晴天が続きますように。

改めて今年のテーマをリリースより引用:「本展では、日常生活への独自の着眼点で実用的かつ審美的に実現したプロダクトや、新技術を活用し様々な試行から生まれたマテリアル、有機的に身体感覚に訴える新たな機構、往年の名作を現代の目線で新たに表現した独創的なプロジェクトなど、ジャンルを問わずに一堂に展示。」

注目はフリッツ・ハンセンの「7 COOL ARCHITECTES」。アルネ・ヤコブセンの名作椅子〈セブンチェア(Series 7)〉を、世界各地に拠点を置いて活動する建築家7組が再解釈、再構築した作品を披露。
今年夏から秋にかけて、ロンドンを皮切りに、コペンハーゲンなど欧州各都市で展覧会が開催され、今回の「AnyTokyo」は巡回展、そして日本初披露となる。
7作品を横に配列した展示ブースは12mmの角材による巧みな木組みで、総本数は約400。天井から吊らずに自立している(デザイン:篠崎弘之建築設計事務所, インスタレーションコーディネーション:MIRU DESIGN, 協力:並木木材株式会社。本展に先立つ春、篠崎氏はミラノ・サローネにおいて、同じ12mmの角材3,000本を使って事務所の作品展「Home in House」を開催しており(制作協力は本展とは別の工務店)、評判となったその展示をみて、今回の巡回展の会場構成をという白羽の矢がたったようだ。

7組それぞれに異なるコンセプトで再構築された〈セブンチェア〉はもちろん、7作品がどのように据え置かれているかも大きな見どころ(事務所表記の後の国名は、事務所の活動拠点を示す)
左奥:スノヘッタSnöhetta / オスロ,ニューヨーク)
右手前:五十嵐淳五十嵐淳建築設計事務所 / 札幌,佐呂間町)
ネリ&フーNeri&Hu Design and Research Office / 上海,ロンドン)の作品は2脚で1組、脚は6本。2人同時に座らないと機能を果たさないと思われる。2つの座の間の丸卓には、コンセプト模型がチョコンと載っている(ミラノでの篠崎事務所個展「Home in HOuse」でも見られた構成)
ザハ・ハディドZaha Hadid Architects,ロンドン)の〈セブンチェア〉は2本のスチール棒がぐるーりと回っての3点直立。
左:カルロス・オットCalros Otto Architects in Association with Carlos Ponce Leon Architects / ウルグアイ モンテビデオ)
中央:ジャン・ヌーベルAteliers Jean Nouvel / パリ)
右: ビッグBIG : Bjarke Ingels Group / コペンハーゲン,ニューヨーク)

各作品のコンセプトは、フリッツ・ハンセン特設ページに掲載されている。〈セブンチェア〉がどのように製造されているのか、同社がYoutubeに公開しているメイキングムービーを見たうえで読むと理解が深まる。
「Fritz Hansen - Making of Series 7」(再生時間:5分34秒,BGM付き)

〈Series 7(セブンチェア)〉が1955年に世に送り出されてから60年。いわゆる版権は既に切れ、巷にはジェネリックと呼ばれる家具が出回っているが、9枚の積層合板による立体成型は、フリッツ・ハンセン社の高い技術力、クラフトマンシップ、伝統に支えられてきたもので、正規の製品は格が違うのだと解る。

今回の「7 COOL ARCHITECTES」では、ヤコブセンがデザインした〈セブンチェア〉の原型を崩さないこと、という命題があった。脚をとり外したり、2つ並べたり、積層に特化したり、7組の建築家の解釈はそれぞれ。
7作品のうち最も重い、約25kgもある〈セブンチェア〉。このほかの作品は木組みの上に据えられているが、BIGの作品は床に直置き。
12mmのホワイトアッシュの角材同士の接続は、木工の切り欠きによるもの。補強に鉄ネジは1本も使われておらず、アッシュより硬いビーチ材の直径4mmの木ダボがうたれている。さらには400本の角材全て面取りされており、これが展示用の構造物ではなく、家具または建具のような洗練された雰囲気を纏わせている。
ジャン・ヌーベルの〈セブンチェア〉6本の脚を支える6本の角材。予め寸法は調べてあったが、現物のサイズにあわせて、角材の位置をややずらしたり、長さを削ったりと、設営しながらの微調整を行なっている。
約10kgのザハの〈セブンチェア〉も、ご覧の通り、断面を切り欠いた角材3本の上に見事に直立している(展示上の安全対策として小さな平ゴムが挟まっているが、無くとも自立する)
スノヘッタの〈セブンチェア〉が置かれた格子状の台は、重量でややしなっている。木材特有のしなやかさ、その魅力に改めて気付く。

7作品のうち、このスノヘッタの作品だけ、メイキングムービーが期間限定で公開中。
期間限定動画「Fritz Hansen 7 Cool Architects Snöhetta」(再生時間:2分46秒,英語音声)

一見して「石?」にも見えた五十嵐氏の〈セブンチェア〉は、廃木材の欠片を樹脂で固めたもの。イメージビジュアルのポイントカラーはピンクだったが、展示作品はオレンジと黒が強い。「廃材がもっていた色が異なるので、いわば偶然に左右されて、製造の都度で色が異なり、個性となって表面にあらわれる」と五十嵐氏。震災後に問題化した瓦礫の処理や、木造住宅を心の拠り所としながら住み継がれずに廃屋化、やむなく竣工から短期間であっても取り壊される、そんな日本の悩ましい現状と、世界を舞台にロングセラーを誇る大量生産の既製品との比較も、今回のコンセプトには込められている。
廃材をイメージしたステージは、4本の脚がピタリと収まる1つのパターンを30段積み上げたもの。「構造家を入れずにこのブースを組んだのは凄いし、自分たちで現場で調整もできるというのも良い。僕も好みの展示です」と、前日の内覧会と初日に来場していた五十嵐氏の談。
なお、五十嵐作品だけでなく、7作品の特徴は展示の仕方にも反映されており、前述のBIGのブースでは、上層ほど横のラインの感覚が狭まっている"積層"に。
会場で篠崎事務所の担当増田裕樹氏に図面をみせてもらったが、角材400本全て図面化されていたのには驚愕。1から400までナンバリングされ、施工は図面をみながら。部分によってはどれか1-2本でも欠いてしまうと、微妙なバランスが崩れてしまうそうだ。面取りの効果も大きいが、この美しさは漂う緊張感ゆえのもの。

昨年の「AnyTokyo 2014」で腕時計を展示していた、TAKT PROJECTは、今年6月の「Interior Lifestyle Tokyo」TALENT部門に出展していた、水を吸い上げるプラスチックによるインテリアのニューバージョンを披露。鉄、藍染め、紅花、栗、桜の葉、山ぶどうなど自然素材でテーブル天板を染色。

ヴィジュアルデザインスタジオWOWのプロダクトプロジェクト:BLUEVOX!のブース。1作目のバッグ「A SQUARE」に続き、組み立て式チェアと、三河地方で代々、仏壇を手掛けてきた漆の塗り師と、WOWが培ってきた最先端技術が融合した器「SHIZUKU」を披露。極めて薄い呑み口は、木地木工によるものではなく、シリコンの型に塗った漆を引きはがし、別途製作した下の高台と一体化させている。
WOW inc.アップロード動画「SHIZUKU by BLUEVOX!」(再生時間:1分30秒,BGM付き)

オリンパスはネット限定で販売中の「DIY CAMERA KIT」の実物を展示。ダウンロードした展開図の型紙でダンボールを加工、組み立て、好きに色を塗り、自分のスマートフォンに装着して使用する。スマホ撮影に慣れ、カメラを構えたことがない子どもたちには新鮮らしい。さらに「DIY CAMERA KIT for OLYMPUS AIR」は、スズキユウリ氏の作品「Otto」の機能を加えることで、シャッター(とは今は云わないらしいが)を自在にセットできる。


メイ・エンゲルギールSTUDIO MAE ENGELGEERのテキスタイルコレクション「MODE furniture fabric」は今春のミラノサローネで発表された新作。

脇田玲(慶応義塾大学教授 脇田玲研究室「Scalar Field of Shoes」は靴底の裏にかかる圧力を自然な造形美として可視化。会場前に展示されているトヨタIT開発センターのドライビングインターフェイス「FINA」でもコラボ中。

ソニーグループによる「wena project」は、腕時計のステンレススチール製のバンド部分に、おサイフケータイ機能、スマホと連動したさまざまな機能を内臓させる。試しに嵌めてみたら、機能が詰め込まれている分だけズッシリと重い。自然に身に着けられるウエアラブルシリーズの第一弾商品として、クラウドファンディングの支援も取り付け、発売が既に決まっている。

一昨年、昨年と「AnyTokyo」に3年連続の出展。今年はオリジナルの照明器具を発表。
h220430は 都内に開業予定の産婦人科からのオーダーにこたえて板坂 諭氏がデザインしたもので、卵子と精子が結びついた瞬間、微弱な電気信号が発せられる→光る受精卵をイメージしたもの。作品名はズバリ、「THE BIRTH」。
展示の10W白熱球は42個だが、フラードームのように拡張可能。会場では展示用に明滅を繰り返すプログラムが作動中。光が消えたときの内部が下の画。
電球の面に周りの電球が映り込んでいる画などはまさにタマゴ(出展者を前にして「うわ、気持ち悪いですねー」などと口に出してしまったが、「卵っぽいでしょ」とニッコリ笑顔で返される。これもデザインのひとつであろう)

上記以外の出展者(敬称略):菅澤大、森田裕之、大城健作、MINOTAUR、nbt.STUDIO。
「AnyTokyo 2015」会期は11月3日まで。光摂殿内の会場は11-20時オープン。入場無料。

「AnyTokyo 2015」
http://anytokyo.com/2015/




+飲食のメモ。
昨年は地下鉄芝公園駅を使ったので、その途中にある高級ブーランジェリー「Le Pain Quotidien 芝公園店(ル・パン・コティディアン)」にて豪遊。今年はJR浜松町、地下鉄大門駅と会場の間にあるカフェ「久緒羅珈琲(クオラコーヒー)」で休憩。

店内の掲示に小さく、"PCを使用しての長時間のご利用はご遠慮いただきたく"というお願い文があり、こじんまりと静かに過ごす時間とともにコーヒーを味わいましょう。

本日のショートケーキ(たしか¥450)+カフェオレ(¥480)の画(ケーキとセットで30円引きに)オレもラテもブレンドのホットもアイスも480円均一という珍しい価格設定。オレは大きいカップになみなみ。平日はうどんのランチメニューあり。ケーキはケースに各種あり。

美味しゅうございました。ごちそうさまでした。


久緒羅珈琲 facebook
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