「キュッパのびじゅつかん」@東京都美術館

東京都美術館で開催中の「キュッパのびじゅつかん」を観る。

"キュッパ"とは、ノルウェーの作家オーシル・カンスタ・ヨンセン氏が生み出したキャラクターで、集めることが大好きな丸太の男の子。デビュー作の絵本『KUBBE LAGER MUSEUM』は世界数カ国語に翻訳、発売され、国内では福音館書店から『キュッパのはくぶつかん』として2012年に刊行。日本語版公式サイトもある。

"キュッパの読み聞かせ絵本"を展示第1室の導入部に据えた本展は、絵本で描かれているストーリー:好きなもの、気になるものを集めるという行為は、"人間の根源的な喜びに通じている"のと同時に、さらに、収集したものをナンバリングして整理し、自分以外の誰かに見せる、+集客のために広告をうつ、来場者に満足してもらうための施策を用意する、という領域に達した場合、それらは博物館や美術館の日常業務に等しいのだと感じさせる。
会場デザインはフジワラテッペイアーキテクツラボが担当。

会場入口からエスカレーターを下っていくと視界に入ってくるのが、地下3階ギャラリーAに展示された、日比野克彦氏による巨大インスタレーション作品《bigdatana -たなはもののすみか》。三重県尾鷲産のヒノキの間伐材で作られた"巨大な収蔵棚"が会場に組み上げられていく様子が、youtube上に限定公開動画としてアップされている(施工:株式会社ムラヤマ)
会場内の動線は先ず地下3階まで下り、ギャラリーB(撮影不可/「キュッパのびじゅつかん」公式Twitterには写真が掲出されている)から。前述・キュッパの読み聞かせ、栗田宏一《SOIL LIBRARY/JAPAN》2015、岩田とも子《ひろってはたどるような部屋》2015、竹中大工道具館所蔵の墨壷コレクション、《木村蒹葭堂貝石標本》や《宮澤賢治採集の石》、大阪市立自然史博物館所蔵の植物の種やキノコの標本の展示に続き、この日比野作品会場となる。
テーブルの上にはガラクタと云っては失礼だがいろいろなモノが並んでいる。それらを参加者のセンスでピックアップし、1つの標本箱にまとめていく。ラベルをつけたらそのまま場内に展示される、という参加型のインスタレーション作品。
展示第のどこかにオーシル・ヨンセン氏がつくった標本箱もある。また、岐阜県産の銘木「東濃桧(とうのうひのき)」も一部に使われているらしいのだが、確認できず。
"巨大所蔵棚"の内部には階段から入場できる(時間制、毎回10名限定、内部は撮影不可=誤って下にカメラを落とすとキケンというのがその理由)
場内を通り抜け、ギャラリーCとDに繋がっている地下1階フロアに到着。反対側から眺めると、日比野氏がワークショップで制作した6つの標本箱が確認できる。キュッパ的な緑や黄色の紙箱はポーターズペイントで塗装したもの(公式Twitterの記述より)
地下2階のこちら側までまわってくると、前川國男が設計した同館のかまぼこ天井、照明も近い距離で眺められる(参考:大改修工事後のトビカン見どころマップ.pdf)
ギャラリーCの作品も日比野克彦によるもの。

アラン・ケイン《Home for Orphaned Dishes 忘れられた器たちの棲み家》2015
棚に並んだ陶磁器は、1960-70年代の英国庶民の間で流行した復古調の工芸品。今や"格好よくない地味なもの"として、家庭の片隅で埃を被った状態だという(自由が丘あたりの雑貨店で売られていたら買ってしまいそうだが)
この作品も参加型インスタレーションで、会場ではニッポンの家庭で眠っている「一番要らない器」の寄付を会期中に限って募り、展示に加えている(持ち込み規定あり)

最後は美術家の小山田徹氏による展示。「巡礼」をはじめとするこちらの作品群が最も個人的ツボにきて、見飽きなかった。
天井から吊り下げられているのは、上野界隈の一般家庭の押し入れや天井裏に眠っていたモノたち。題して《浮遊博物館 2015》。貸し出しの懐中電灯で照らして観察する。
平台に置かれているのは石、石、石。触れたり握ったりヨイショと抱えたりもできる「握り石」。
総合研究大学院大学の成瀬清氏との共同制作標本《Diversity Maniacs》では、メダカの顔を正面からどアップを"観賞"できる。ズラリと並んだ標本と拡大鏡を覗き込むと、確かに、個体ごとに顔つきが異なる。へーえ。
こちらも本展で初めて見て知った。実測図なるもの。
実際に人が現地に赴き、身をもって計ることで出来あがる「洞窟図面」と模型。
滋賀県米原市で採集されたデータを元に方眼紙にまとめられた「実測による洞窟図面各種」および立体模型。
キュッパのびじゅつかん」会期は10月4日まで(10月1日は都民の日で無料入場できる)。なお、同館では「モネ展」を12月13日まで開催中。ゆえに館内は混んでいる。

東京都美術館
http://www.tobikan.jp/




+飲食のメモ。
2012年春のリニューアルオープンで、館内1,2階には、抹茶パフェがおいしい[M cafe]やレストランが入り、展覧会にあわせてコラボメニューも用意されているが、今回は館外へ。ハスのジャングルと化している不忍池を右手に眺めながら、湯島の交差点付近にある喫茶「舞い鶴」でぶどうぱんをテイクアウト。
「天然酵母のぶどうぱん」は火・木曜限定販売(消費税込み¥850)。上の写真では小さく見えるが、全長約20cmある。天然酵母以外のぶどうぱんは曜日を問わずに大小アリ。白ワイン漬けの干しぶどうがギッシリと詰まっていることが持った瞬間に判るズッシリ感。こちらのぶどうパンを一度でも味わうと、ヨソのでは物足りなくなってしまう。
美味しゅうございました。ごちそうさまでした。