手塚建築研究所《ふじようちえん スマイルエッグス》内覧会

立川市にある「ふじようちえん」に新たな園舎が誕生した。
立地は西武拝島線武蔵砂川駅南側のほぼ駅前。設計は、この《スマイルエッグス》から南に15分ほど歩いた場所にある、ドーナッツ型の平屋屋根を子供たちが駆け回ることができる園舎として有名な《ふじようちえん》と同じ、手塚貴晴氏と由比氏が代表を務める手塚建築研究所

手塚建築研究所としては、前述のドーナッツ型園舎、子供向け英語教室《Ring Around a Tree(ツリーハウス)》、2014年9月にオープンした《キッズテラス》以来、4棟目の教育施設。敷地面積1188.00平米、元は駐車場。
《スマイルエッグス》という建物の名称としては、0歳2か月から2歳児までの未就園児を預かるログハウスの保育施設が、フェンスを挟んだ北側に隣接しており、いずれはこちらの園庭と新施設は行き来ができるようになり、大根畑が作られる計画もあるそうだが、本格的な外構工事を前に、一足早く新園舎の内覧会が開催された。
西側の入口正面から、しゃがんで撮影した画。屋根は傘を傾けたように南東側が低くなっている。 下の2枚は南側からの眺め。

屋根の外周部は端が立ち上がっていて雨水を流す。仕上げはFRP防水。色は一回では決まらず、検討を重ねたとのこと。
建物東側には、園児なら出入りできる小さな引き戸が設けられている。
東側外観、逆光の画。最も低い軒下1メートル強の付近で屋根の雨水を集約、下の排水槽で受ける。
設計:手塚建築研究所/手塚貴晴+手塚由比 担当:島田真弓 寺田和彦 斧田裕太
構造:オーノJAPAN/大野博史 担当:中野勝仁
照明:ぼんぼり光環境計画/角舘まさひで 担当:竹内俊雄
施工:内野建設/内野良一 担当:豊田 奨
大人だとちょっと屈んでの出入り。なにやらガリバー国への入口のようだが、中に入ってみると、外観から受ける印象よりはるかに広いので驚いた。建築面積112.51平米、延床面積99.61平米。木造地上1階建て。
歪んだ楕円形の円周部に沿って、高さ10センチほどの"ベンチ"がぐるりとまわっている。
床は木のフローリング。0歳児は生後半年前後でハイハイを始めるので、ささくれない、手で触れた時にも柔らかく、心地の良い桐材が選ばれた。
内覧会時はぼんぼり光計画が配した電球が点灯していたが、手塚氏いわく、昼間は外光だけでじゅうぶんに明るいそうだ。入口の外部照明は、日没と日の出の時間30分前にON/OFF点灯する。
生まれたばかりの赤ん坊は日がな一日眠って過ごす。大人から見れば何もしていないこの時間が、0歳児の成育にはとても大事で、ふじようちえん園長先生いわく「脳が育つ」時間だという。赤ん坊が毎日、目にする景色をどうつくったものかを考えていた手塚氏は、ある時、番傘を開いたような形状にしようと閃いた。空間内部の柱は、傘の柄にあたる1本だけである。
近づいてみると、大黒柱は集成材であることがわかる。柱と梁はベイマツの集成材。極めてタイトだったという工期とコスト、そして強度面をクリアする材として採用された。 
「ものすごく小さな部材がこれだけの大スパンの大屋根を支えている。構造計算はもちろん、柱と梁を合わせていく施行作業は大変で、これを見事に作り上げた日本の大工さんたちは本当に凄い」と手塚氏は関係者を絶賛。
会場に用意された製本図面をざっと捲ってみたところ、天井の屋根合板配置図や野垂木梁伏図などはまるで蜘蛛の巣のごときであった。
屋根は傘を傾けたように角度がついているため、部材の接続部の継手・仕口の形状には、ひとつとして同じものが無い。3次元で図面を起こし、プレカットまで自動でできる業者株式会社中東のノウハウと、工務店の施工技術などが結集して誕生した、ふじようちえんの新たな"タマゴ"。
上の画・柱の下の赤ちゃんは生後4か月。やがてハイハイができるようになり、赤いパンツをはいた子のようにあちこち全力で走り回る。未就学児童の託児施設のほとんどにおいて、0歳児はパーテーションか柵で囲われた一角に寝かされている。誤って他の子に踏まれないようにするためだ(園長先生の談)。その悪しき慣習が少なくとも此処では解消される。
"#保育園落ちたの私だ"問題に揺れるこの国。園長先生は「0歳児が一日中、安全に寝て過ごせる環境を、もっともっと作らないといけない」と、集まった見学者に訴えた。
手塚事務所に園長から設計の打診があったのは昨年9月。翌年春までに建てたい希望を叶えるため、この半年間頑張った事務所スタッフらがねぎらいとともに紹介される前を、幼児が楽しそうに走り回る。
円周部の10センチの段差は、この"短い足"の子供が腰掛けるにはちょうどいい高さ。小さな穴は、オンドル式床暖房の暖気の吹き出し口。
初夏を思わせる陽気のこの日は冷房がオンに。円周部南側に、泳浴槽やオムツ替え台のある小部屋、布団収納庫などに並んで空調機が収納されている(上の画)。上下2段の扉を開くと冷気は天井に向けて流れる仕組み。
幼児用トイレ。
大人用トイレとミニキッチン。
手塚氏の解説が始まる前、大人も子供もごろんごろん。

なお、今回の内覧会は、熊本地震支援のチャリティーを兼ねた。受付時の募金全額が寄付される(東日本震災発生直後にも、手塚建築研究所は住宅内覧会で同様のチャリティーを実施している)

ふじようちえん
http://fujikids.jp/